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2019年6月20日

ICT技術を活用したスマート漁業で地域を活性化

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ICT技術を活用した新事業のモデルケース

キラキラと輝く有明海。シタビラメなどを獲る小型漁船が浮かび、コンブやワカメを養殖する網が波に揺れる。古くから宝の海と呼ばれる優良な漁場だ。この有明海の海水を利用して、長崎県島原市と島原漁業協同組合が陸上アワビ養殖を共同運営している。養殖したアワビを新たな特産品にしたいと島原市の市長・古川さんは考えている。

「以前、魚がたくさん獲れていて島原の漁業はすごく元気がありました。ですが今は漁獲量が減少し、そのせいで後継者が少なく、漁業者の高齢化が進んでいます。このような状況を考慮しますと、これからの漁業は海だけではなくて陸上での養殖を開発して支援していく必要があると思い、はじめました」(古川さん)。

陸上アワビ養殖は、島原漁業協同組合がトラフグなどの養殖をしている施設で開始された。アワビの餌は養殖のコンブやワカメを製品にする際にでる切れ端。養分たっぷりの地元産の餌のおかげで磯の香りのするおいしいアワビに成長すると島原漁業協同組合の組合長・吉本さんが自信をのぞかせる。

島原漁業協同組合 組合長 吉本さん

島原漁業協同組合 組合長 吉本さん

「島原半島が世界ジオパーク日本第1号に認定されていることからジオアワビと命名して売り出しました。とても評判がよく供給が追いつかなくなったので、増産するため専用の養殖場を新設しました。将来的には、陸上アワビ養殖を地元水産業の活性化策にしたいので、モデルケースとなる新養殖場にはアワビの成長を促進する水中溶存酸素量を増やす装置を設置しました。常駐する人員も少なくして、費用の削減をめざしました」(吉本さん)。

新養殖場には水槽の清掃や餌やりをする作業員1名が常駐。専門知識が必要な水質チェックは既存の養殖場の場長・髙木さんが兼任したが、車で1日何回も往復することになってしまった。移動時間と車の燃料費を削減する方法はないかと関係者一同で検討していた矢先、九州を西日本豪雨が襲った。

陸上アワビ養殖で成長具合を確認する髙木さん

陸上アワビ養殖で成長具合を確認する髙木さん

「新養殖場のアワビの稚貝が全滅してしまいました。有明海に大量の雨水が流れ込んだために海水の塩分濃度が急激に低下したからです。数値の異常をもっと早く察知していたら、被害を防げたんではないかと思いましたね」(髙木さん)。

省力化と危機管理の徹底が必要だと考えた島原市長の古川さんは農業分野で活用を進めていたICT技術に着目。センサーが計測した水質データをスマートフォンで確認できるサービス「ICTブイ」の導入を決めた。

「ICTブイ」の温度・塩分濃度センサー(右)と溶存酸素量センサー(左)

「ICTブイ」の温度・塩分濃度センサー(右)と溶存酸素量センサー(左)

「ICTブイ」とは?

海水の温度や塩分濃度などの水質データをドコモのネットワークを経由してスマートフォンや携帯電話で確認できるソリューションです。現在値だけではなく過去からのデータ推移も表やグラフで確認することができます。遠隔にいても水質データを把握ができ、適切な管理を実現。データから裏付けされた計画的な生産、品質の向上を導きます。また、しきい値を超えた場合にはアラーム通知が発信されるので危機管理にも役立ちます。

水質変化への素早い対応が可能に

「ICTブイ」は、アワビの水槽に設置したセンサーが海水の温度と塩分濃度、溶存酸素量を1時間ごとに計測し、クラウドサーバーに送信する。そのデータはスマートフォンの「ウミミル」アプリで見ることができる。島原市の取組みとして陸上アワビ養殖を担当している農林水産課の松村さんも頻繁にデータを見ているそうだ。

「海水の温度や塩分濃度はもちろん、溶存酸素量にも注意しています。アワビは餌を食べる時に活発に動くので酸素を消費するんです。アワビの成長に影響する大切な要素ですので、しっかりチェックしています。複数の関係者でチェックできるのもICTブイの利点だと思います」(松村さん)。

島原市 農林水産課 松村さん

島原市 農林水産課 松村さん

水質チェックを担当する養殖場の場長・髙木さんは車で何回も往復していた手間がなくなったことに加え、突然の水質変化にも対処できるようになったと喜んでいる。

「島原は雨が降っていないのに熊本県でゲリラ豪雨が発生することがあります。そうすると有明海に大量の水が流れ込み、気がつかないうちに海水の塩分濃度が下がってしまいますが、そういう時にこそICTブイのアラーム通知が役立つと思うんです。しきい値を超えるとスマートフォンに通知が届くので、すぐに対処できます。それが一番のメリットですね」(髙木さん)。

「ICTブイ」が広げるスマート漁業の可能性

「ICTブイ」の導入により、新養殖場は省力化と危機管理の徹底が実現。しかし、それだけにとどまらず島原漁業協同組合の組合長・吉本さんはさらに大きな目標を掲げる。

「ICTブイを長期的に利用することによって陸上アワビ養殖にとって最適な温度とか溶存酸素量とかいろんな数値がわかってくるはずです。最適な水質状況を探り当て、地元の漁業者が参入したくなるような魅力ある成果を出したいと思っています」(吉本さん)。

島原市 市長 古川さん

島原市 市長 古川さん

地元水産業の活性化をめざす島原市と島原漁業協同組合。市長の古川さんは島原市全体の高齢化対策にも目を向けている。

「モデルケースとして進めている陸上アワビ養殖が成功し、ジオアワビが評判になれば、若者にとっての就業の場としても憧れを持っていただけると思うんです。将来的には、地元だけでなく都会の若者が陸上アワビ養殖をやってみようと移住してくるような流れを作りたい。そのためにもスマート漁業を支援していくことは大切だと思っています」(古川さん)。

2018年11月、島原市と島原漁業協同組合が取組む陸上アワビ養殖は長崎県水産業大賞の特別賞を受賞した。ICT技術の活用などが高く評価されたという。島原の陸上アワビ養殖は、令和という時代を象徴する新しい水産業として拡大していくことだろう。

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