ビジネスコラム

ビジネスに役立つ情報が満載!「コラム」「漫画で見る」コンテンツを公開中!

中小製造業のDXをリードするファクトリー・サイエンティストとは

2021年1月8日

中小製造業のDXをリードするファクトリー・サイエンティストとは

  • facebook
  • twitter
  • line

ものづくり業界の課題をデジタルの力で解決するファクトリー・サイエンティスト。いったいどのような人材なのでしょうか。ファクトリーサイエンティスト協会の大坪正人代表理事に話を聞きました。


1.ファクトリー・サイエンティストは製造業になにをもたらすのか

現在、日本の製造業は労働人口の減少に伴う人材不足や新型コロナウイルス感染症の拡大に代表される新たな環境変化への対応などさまざまな課題を抱えています。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の波は、今や大企業だけでなく、中堅・中小企業にも押し寄せています。

製造業が抱えるこれらの問題を解決するために、一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会が育成しているのが「ファクトリー・サイエンティスト」という新しいスキルを持った人材です。同協会では中堅・中小規模の製造業の従業員を対象に、ファクトリー・サイエンティストの育成講座を開催。IoTを活用した、データに基づいた素早い経営判断をサポートできる人材の育成を行っています。

これからの日本の製造業は、IoTや5Gといった新たな技術の発展により、工場のスマート化など劇的な変化が待ち受けています。このような状況の中、ファクトリー・サイエンティストは製造現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。同協会の代表理事である大坪正人氏に話を聞きました。

2.3つのスキルで工場責任者の「右腕」に

そもそも同協会が提唱するファクトリー・サイエンティストとは具体的にどのような人材なのでしょうか。大坪氏は次の3つのスキルを持った人材だといいます。

「まず一つ目がデータエンジニアリング力です。これは、工場にある装置や機器にIoTセンサーを取り付けてデータを取りためるためのデバイスを実装する力です」

工場の機械を動かせば振動し、音を出し、温度が上がります。これまで現場の職人はこうした機械の状態を感覚と経験によって判断してきました。このような情報をIoTによって可視化し、取得しようというわけです。

「二つ目のスキルはデータサイエンス力です。IoTによって取りためたデータを他のデータと突き合わせることで工場にとって意味のある情報を引き出す力です。そして3つ目が、データマネジメント力です。いくらデータを取りためていても、ビジネスに活かさなければ意味がありません。そこでデータをわかりやすく知覚化し、工場のメンバーと合意を図ったり、未来の戦略を立てていく力が求められます」

(提供)ファクトリー・サイエンティスト協会1

(提供)別ウインドウが開きますファクトリー・サイエンティスト協会

大坪氏は、このようなスキルを持ったデータ・サイエンティストが、工場の統括責任者の「右腕」として現場のDXをリードすることで、中堅・中小規模の企業でもデジタル化は成し遂げられるといいます。

3.中堅・中小規模の製造業にはデジタル人材がいなかった

ファクトリー・サイエンティストは、今後の中堅・中小製造業のDXをリードする存在といえそうですが、こうした人材の育成を考えるにいたった背景はどこにあったのでしょうか。

一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会 大坪正人代表理事(由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長/株式会社由紀精密 代表取締役社長)

一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会 大坪正人代表理事
(由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長/株式会社由紀精密 代表取締役社長)

「きっかけは私と慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授の議論です。2018年2月、当時から二人の共通した課題感として、中小製造業にはデジタルに通じた人材がいないというものがありました」

日本に存在する製造業のほとんどが中小規模という中で、このままでは多くの企業がデジタル化に取り残されてしまうという危機感があったといいます。

「私も製造業の経営者ですが、この現状を打破するためには、中堅・中小規模の製造業にもデジタル人材が行き渡るよう、育成しなければならないと思いました。そこで、さらに田中教授と議論を重ね、現在のファクトリーサイエンティスト協会の形に近づけていきました」

大坪氏と田中教授は、ファクトリー・サイエンティスト育成のためのトレーニングプログラムを作りながら、実験的な講座を開催。そして2020年4月に正式にファクトリーサイエンティスト協会が設立されました。

「まさにコロナ禍の真っ只中でした。協賛企業を集めるのにも苦戦するかと思いましたが、かなり多くの企業から賛同を得ることができました。中小企業だけでなく、ものづくりの現場を有する大企業の参加もあり、講座も受講者が定員まで集まりました」

同協会では、当初講座の受講者は20代〜30代、入社3年目から9年目という若手の社員を想定していました。しかし、ふたを開けると、30代をピークに20代から50代まで幅広い年代が集まり、さらに現場の従業員だけではなく、経営層の参加もありました。受講者の業種も切削工具メーカー、金型メーカー、部品加工、自動車解体業と幅広く、製造業以外からの参加もあったといいます。

4.タイピングとファイル操作ができればファクトリー・サイエンティストになれる

講座にはさまざまなバックグラウンドを持つ参加者が集まりましたが、DXやIoTの講座というと、ITスキルや専門知識を求められそうで、身構えてしまう方も多いかもしれません。現に講座の参加者の中には、「敷居が高いのでは……」と不安を持っている方もいたといいます。しかし、大坪氏は決してハードルが高いものではないと強調します。

「IoTを活用したデータ収集や分析能力を身につけるといっても、大それたことではありません。現場の実際の課題をもつ人材が手軽に利用できるIoTによって、自分の手で機械の状態を見える化、分析により課題解決していこうというところを目指しています」

講座はオンラインで行われ、特別なプログラミングの経験や知識などは不要です。ITスキルとしては文字入力ができ、ファイルの操作や保存ができれば十分だといいます。

「受講者にはマイコンボードと温度センサーがセットになったIoTキットが送られます。これを実際に使いながらIoTの仕組みや使い方を学びます。

(提供)ファクトリー・サイエンティスト協会2

(提供)別ウインドウが開きますファクトリー・サイエンティスト協会

マイコンボードは半田付けの必要もなく、電源とセンサーをつなぐだけで動作します。ボードにはWi-Fiが搭載されているため、センサーで取得したデータをすぐにクラウド上のサーバーに送ることができます。講座用のキットは、実際の仕事で、すぐに使うことも可能です」

育成講座は5日間で修了し、最終日にプレゼンテーションを行うとファクトリー・サイエンティスト認定書が授与されます。IoT関連技術は短いスパンで進化するため、この認定証は1年ごとの登録更新を推奨し、オンラインコミュニティでの最新情報の共有など知識が陳腐化しない仕組みとなっています。

5.講座で得た知見をすぐに自社で実践する企業も

まだ、ファクトリーサイエンティスト協会が発足して、半年を過ぎた程度ですが、トライアルの講座を含め、すでに講座で得たIoTの知見を自社のビジネスに取り入れている企業もあるといいます。

「熊本県でプラスチック製造・加工業を営む小森プラスチック工業では、IoTで金型の温度を測定、設定温度を上回るとアラームで警告するような仕組みを構築しています。同社ではこれによって、1日約180分のかかっていた作業の自動化を実現しました。

石川県で中古車の販売、査定、仕入れ、解体を行う会宝産業では、これまでベテラン社員の経験と勘を頼りに行っていた解体作業の工程をデータ分析によって改善しています。さらにこのデジタル化への取り組みを社内に広めるべく、組織的にIoT推進活動を行っているいうことです」

大坪氏によれば、日本には現在約20万の製造拠点があるものの、デジタル人材はほとんど配置されてないといいます。

「まずは5拠点に1人の割合で配置できる人数の育成を目指しています。私たちの講座を通し、自社以外にも、周囲の製造現場をデジタルの力で課題解決し、強みを生かすことのできる人材を多く育てることで、中堅・中小製造業のDXを促進し、活性化につなげられればと考えています」

  • facebookfacebook
  • twittertwitter
  • line

お問い合わせ

メールでのお問い合わせ

お電話でのお問い合わせ

ドコモ・コーポレートインフォメーションセンター

受付時間:平日午前9時~午後6時(土・日・祝日・年末年始を除く)

  • 海外からはご利用になれません。

このページのトップへ