Interview Vol.3-2

Opinion & Interviewline
想像を超える力強い変化がすべての子どもたちに

授業での実践

熊本市の教育ICTプロジェクトにおいて、先行導入の一校として教育ICTに意欲的に取組む楠小学校。先生方による新しい授業づくりが、成果を上げはじめています。同校の3人の先生と、日本での教育ICTの普及・啓発に力を尽くす情報通信総合研究所の平井 聡一郎氏が、教育ICTの実践と効果について語ってくれました。
導入の効果子どもたちの変化と創造

導入の効果授業での実践

楠小学校の先生たちは、それぞれの授業のなかにタブレットを取入れています。それは、従来型の授業に単にタブレットを取入れる試みではなく、新しい授業と学びへの挑戦です。

その新しい学びに向けて、タブレット初心者だった山下 若菜先生は、子どもたちにタブレットで自らを撮らせ、自己紹介の資料を作らせることから取組みをスタートしました。のちには、図画工作で自分の描きたい対象物を撮らせたり、理科の授業で使う植物を撮らせたりと、教科の学習/発表で使う対象物を撮らせるという使い方に歩を進めたといいます。

「タブレットは、子どもたちが、自分の思考を整理して発表し、みんなと共有できるツールであってほしいと考えています。ですから今では、算数、理科、国語、社会、総合など、すべての教科で、自分たちの考えをまとめて発表させる道具としてタブレットを使っています。そのなかで最も難しいのは課題(テーマ)の設定です。どのようなテーマを設定すると、子どもたちが強い興味や感心を抱き、率先して課題に取組んでくれるのか──。その点は、まだまだ試行錯誤の最中ですね」と、先生は笑みを浮かべます。

山下 若菜先生

山下 若菜先生は、子どもたちに考えをまとめさせ、発表させ、クラスで共有するツールとしてタブレットを有効に活用している

FOR THINKING

新しい授業の創造①

思考の整理と
発表の場を作る

山下 若菜先生

山下 若菜先生は、子どもたちに考えをまとめさせ、発表させ、クラスで共有するツールとしてタブレットを有効に活用している

FOR SOLUTION

新しい授業の創造②

課題解決の能力を
育むために

村上 公英先生

村上 公英先生は、ビデオクリップツールを使い、読み書きをまだ習得していない1年生の子どもたちに自己紹介ビデオを作らせることにもトライした。

「タブレットは、算数、体育、総合などすべての教科で使いました。それぞれの教科で、子どもたちに自分の考えをまとめて発表させるのと併せて、私が特に意識したのは、課題解決の能力を高めることです」と、楠小学校の村上 公英先生は語ります。

こうしたタブレット活用の一例として、先生は、5年生の総合的な学習の時間での実践例を教えてくれました。

「総合的な学習の時間での使い方は、要するに、授業で自分が疑問に感じたことをインターネットで調べさせるというものです。そして、自分が発見した疑問への答えを、近くにいる友達に見せて情報を共有させたり、調べてわかったりしたことをみんなの前で発表させたりする取組みを続けてきました。タブレットを使うことで、自分の見つけた情報を、近くにいる3~4人の友達に“ほら、これを見て”と画面を見せるだけで、簡単に共有できます。課題解決に向けた情報の収集・共有の方法を学ぶツールとしては、タブレットは本当に便利です」。

一方で、発表の場では、自分の調べた情報を、どう表現すれば聞く人に伝わりやすいかを、子どもたち同士で考えさせてきたという。

「これは、自分が見つけた情報を、どんな順番で説明するとよりわかりやすく人に伝えられるかを、友達からのアドバイス(フィードバック)にもとづきながら考えていく協働的な学びです。そうした学びが簡単に行える点もタブレットのよさですね」と、村上 公英先生はいいます。

村上 公英先生は、ビデオクリップツールを使い、読み書きをまだ習得していない1年生の子どもたちに自己紹介ビデオを作らせることにもトライした。

山下 ゆかり先生は、主に算数授業の焦点化・視覚化にタブレットを役立ててきました。タブレット初心者だった先生が、授業でタブレットを使いはじめた2018年は、2年生、3年生、4年生の算数授業を担当しました。

そのなかで、“タブレットの活かしどころ”として先生がまず設定したのは、授業に対する子どもたちの意識をそろえることだったといいます。

「たとえば、2年生ぐらいの生徒の場合、授業のなかで“さあ、この問題を一緒に考えましょう”と声をかけても、課題に全く興味を示さず、授業に集中しようとしない子どもたちがいます。そうした子どもたちにも課題への興味・関心を持たせ、課題に取組むクラス全員の意識を同じスタートラインに立たせるのは意外とたいへんです。その問題をタブレットで解決しようと考えました」(山下 ゆかり先生)。

具体的には、プレゼンツールを使って教材ページを作り、『これから何がはじまるのか』『どんなことを学ぶのか』をよりわかりやすく表現することに努めてきたといいます。

「そのなかでは、たとえば、面積計算の授業では、Googleマップを使って子どもたちが身近に感じる地域を表示させ、『1平方キロメートルというのはどれくらいの広さなのか』『面積とはそもそも何か』を直感的に理解してもらうようにしたこともあります」(山下 ゆかり先生)。

また、4年生の分数の授業でもタブレットを使い、とても効果的だったと先生は説明します。

「分数の“仲間分け”の授業にタブレットを活用したのですが、効果的だと感じたのは、タブレットのツールを通じて、子どもたちが問題を解いていく過程が見える点です。それが見えてくると、子どもたちが、どこで躓(つまず)いているかが把握できます。こうしたタブレットの機能は、わかっている子どもに、わからなくて困っている子どもを助けさせるといった、学び合いに便利に使えると感じました」

山下 ゆかり先生は、算数における「分数の仲間分け」の授業にタブレットを使い、子どもたちがどこに躓(つまづ)いているかを見える化した。

CREATE INTEREST

新しい授業の創造③

算数授業に興味を向けない
生徒を惹きつける

山下 ゆかり先生

山下 ゆかり先生は、算数における「分数の仲間分け」の授業にタブレットを使い、子どもたちがどこに躓(つまづ)いているかを見える化した。

ACHIEVEMENT

手にした成果

教育ICTが
もたらしてくれたもの

情報通信総合研究所の平井 聡一郎氏

文字を書き込んだり、修正したりするのがかんたんなタブレットでは、子どもたちは積極的に自分の考えをまとめ、表現しはじめる。

周囲の友達と簡単に自分の考えや発見、アイデアを共有できるタブレットが、楠小学校の授業に大きな変化をもたらしている。

体育の授業中、撮影した動画で動きを確認する子どもたち(熊本市立桜木小学校)。

タブレットを使った新しい授業づくりに取組む楠小学校の先生たちは、さまざまな効果/成果を手にしています。なかでも3人の先生が口をそろえるのが、学びに対する子どもたちの参加意欲の“劇的”な高まりです。

「タブレットの導入前と後では、授業に対する子どもたちの参加意欲は段違いです。紙のノートでは、問題の答えをなかなか書きたがらない子どもも、なぜかタブレットだと積極的に書こうとします。何かを発表する力やまとめる力も目に見えて向上していて、自分の考えを見てほしい、聞いてほしい、私も“発表したい”という子どもたちが、どんどん増えています。今では、授業のなかでの“出番”は、私よりも子どもたちの方が多いくらい。文字どおり、子どもたち主体・主役の授業が実現されつつあります」(山下 若菜先生)。

「算数の授業でタブレットを使うと、とにかく子どもたちの手がよく動きます。結果として、私たち教師も、子どもたちの思考の動きがよく見えるようになり、過去には授業中に活躍できなかったような子どもの着想にスポットをあてて、授業のなかで“スゴイ”とほめてあげられるようになりました。それによって、子どもたちは、いきいきしてくるんです」(山下 ゆかり先生)。

これらの効果は、ICTに取組むすべての学校に共通してみられる変化でもあると、情報通信総合研究所の平井 聡一郎氏は説明します。

「タブレットというメディアを媒介にすると、人は物事に対して発言することや行動することに抵抗感を感じなくなります。ですから、子どもたちにタブレットを持たせると俄然、積極的になり、主体的な学びが生まれていく。その積極性は実世界での子どもたちの行動にも現れ、教育ICTに積極的に取組む学校の子どもたちは、テストでの無答率が劇的に減り、最終的にはゼロになるというケースもあるほどです」

情報通信総合研究所の平井 聡一郎氏

さらに、課題の発見・解決の力も増していると村上 公英先生は指摘します。

「たとえば、体育の時間では、子どもたちはタブレットで撮った自分たちの姿を見て、友達の姿と見比べながら、自分のどこが悪いのかを発見して、次のトライに活かせるようになります。そんなふうに、すべての授業で課題をみつける力、それを自ら解決する力は確実に向上しています」

一方で、先生たちの教えるスキルの向上や、働き方の改革にもタブレットは有効に機能しているようです。

「タブレットで子どもたちの学びの過程が可視化されると、ある課題の解決に必要な視点を、より適切に子どもたちに伝えられるようになります。それによって、それぞれの授業で子どもたちに最も学んでほしいことを、しっかりと学べる方向へと導きやすくなったと感じています」(山下 ゆかり先生)。

また、タブレットでは、教材を準備するスピードも、授業のなかで使うスピードも速くなります。「結果として、時間のことを気にせずに、子どもたちの思考の流れに合わせて適切な教材を使い、授業が進められるようになりました」と、村上 公英先生は話します。

さらに、山下 若菜先生は、タブレットによる自身の働き方改革について、次のように明かしてくれました。

「私は、小さな子どもの母親でもあるので、授業が終わったら可能なかぎり、早く帰宅しなければなりません。タブレット導入以前は、自宅で学校の仕事をするのが難しく、するにしても多くの荷物を持って家に戻る必要がありました。それが今では、教科書とタブレットを持ちかえるだけで教材の準備ができますし、子どもたちの学びの振り返りもデジタルに行えます。しかも、タブレットはLTE対応ですから、家にWi-Fi環境がなくても、ネットワークに接続できます。私事ですけど、本当に助かっています」

文字を書き込んだり、修正したりするのがかんたんなタブレットでは、子どもたちは積極的に自分の考えをまとめ、表現しはじめる。

周囲の友達と簡単に自分の考えや発見、アイデアを共有できるタブレットが、楠小学校の授業に大きな変化をもたらしている。

体育の授業中、撮影した動画で動きを確認する子どもたち(熊本市立桜木小学校)。

タブレットを使った新しい授業づくりを着々と進める先生たちも、過去に失敗がなかったわけではありません。逆に、さまざまな失敗を経験しながら、教育ICT活用のノウハウを培ってきたといいます。

「最も大きな失敗は、タブレットを使うなら授業のなかでフルにタブレットを使い続けなければならないと勘違いしていたことです。要するに、タブレットを使うことを目的化していたわけです。実際には、タブレットを使わずに紙のノートを使って書かせた方がいいことが多くありますし、タブレットは授業の目的に合わせて、適切なタイミングで使えばいいだけの話です。当初はそれがわからなかったんです」(山下 若菜先生)。

「私が体験した失敗は、体育の授業でのことで、子どもたちの成長の記録を映像として残しておければそれでいいと思い込んでいたことです。その思い込みから、子どもたちに自分たちの姿を撮らせ、提出させていたのですが、それを見ただけでは、授業ごとに子どもたちが何を学び、どんな課題を解決したのかがわかりませんでした。その失敗から、子どもたちには、映像とともに、授業で何ができるようになったのかも明文化して提出してもらうようにしています」(村上 公英先生)。

AND MORE

糧にした失敗

試行錯誤の過程で
体験したこと

3人の先生に共通した“失敗”は、タブレットを使うことにこだわりすぎたことだという。

「算数でも学びの記録を残しておくことが大切なのですが、タブレットを使いはじめた最初の頃は、授業でのメモや課題へ答えをタブレットに書かせるのが精一杯。紙のノートに記録らしい記録を残させることをすっかり忘れていました。熊本市のすべての市立小学校がそうなのですが、楠小学校でも、生徒3人に1人の割合でタブレットを共用していて、1人の子どもが1台のタブレットを占有しているわけではありません。ですから、タブレットにしか記録が残っていないと、子どもたちが、好きなときに自分の学びを振り返れないわけです。そのため現在は、タブレットに記入した内容を印刷させて、ノートに貼りつけさせるなどの工夫を凝らしています」(山下 ゆかり先生)。

平井氏によれば、このような失敗は、授業でのタブレット活用ではよくあることで、失敗をおそれずに、さまざまなことにチャレンジすることが大切といいます。

「教育ICT/タブレットを授業でどう使うかの画一的な方法論があるわけではなく、自分たちの授業の目的を果たすために、タブレットをどんな場面で、どう使うと有効かは、実際に使ってみて、失敗を重ねないとわからないことが多くあります。そのためにも、積極的にいろいろなことに挑戦するのが大切ですし、いい使い方が周囲にあれば、どんどん真似をして取込んでしまうのが得策です。その意味でも、先生同士の横のつながりと、情報・体験の共有がとても大切です」

そうした情報・体験の共有の大切さについて、山下 ゆかり先生も、体験にもとづいて次のように話します。

「当初は、算数の授業で有効そうなツールがあっても、それを子どもたちにどう使わせればいいかがわかりませんでした。そうしたなかで、ドコモ主体の研修で、他校の先生の使い方を知ることをできて本当に助かりました。そのとき、教育ICTを推進する学校同士の連携がいかに大切かを実感することができました」

3人の先生に共通した“失敗”は、タブレットを使うことにこだわりすぎたことだという。

OUTLOOK

教育ICTへの評価と期待

使ってみて
改めて思うこと

タブレット導入で授業への参加意欲を高めた楠小学校の子どもたちは、自分の考えを友達と見せ合いながら、互いに評価するという協働型の学びを自然に身に付けつつある。

タブレットの全校導入から1年近い歳月が経過したとはいえ、楠小学校では教育ICTのプロジェクトはまだはじまったばかり。将来へ向けてはまだ成すべきことが多くあり、一方で期待も膨らんでいるといいます。

「今後AI(人工知能)が高度に発達して、多くの知的労働が機械に奪われるとされていますが、私たちが教えている子どもたちは、そんな将来を社会人として生き抜き、社会を支えていかなければなりません。ですから、AIに使われるのではなく、AIを使う側の人材になってほしいと願っていますし、そのためには、AIにはできない、自分で課題を見つける力や考える力、考えを自分なりに表現して発表する力、またそれを友達と一緒に評価しながら、学んだことを振り返り、改善していく力を育んでいきたいと考えています」(山下 若菜先生)。

このような学びの場の構築には、必要なときに、いつでもICT機器を取り出して、課題が解決できるような環境がほしいところと、3人の先生は異口同音に訴えます。

その言葉を受けて、平井氏はこう続けます。

「教育ICTで子どもたちの学びを変えたいと思うなら、1人1台のタブレットが必要不可欠です。もちろん、クラウドストレージに子どもたちの学びの履歴であるデジタルポートフォリオを蓄積し、それぞれにアカウントを付与すれば、個人の履歴が小学校から中学校・高校へと進んだときにも引き継げますし、振り返りも行えます。そうすれば、3人に1台の環境でも新しい学びは何とか回せていけるでしょう。ただし、子どもたちが、いつでも、どこでもタブレットを使えなければ、新しい学びの“環境”とはいえません。なかには、3人に1台の環境すら整えていないところもありますが、それでは大きな効果は期待できないでしょう。このままでは先行する学校との格差は広がるばかりです。今の子どもたちが大人になる社会は、そんなに遠い未来の話ではないんです」

タブレット導入で授業への参加意欲を高めた楠小学校の子どもたちは、自分の考えを友達と見せ合いながら、互いに評価するという協働型の学びを自然に身に付けつつある。

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