3.3 ネットワーク運用経験を踏まえた機能改善

「LTE-Advanced Release 13標準化技術概要」目次

オペレータのLTE/LTE-Advancedネットワークの運用経験を踏まえた機能改善も、従来の仕様から継続して実施された。

  1. アプリケーション単位トラフィック制御

    Release 12仕様までのトラフィック制御技術では、IMS(IP Multimedia Subsystem)※31による音声・ビデオ呼、緊急呼、その他パケットサービスの単位で制御を行っていたのに対し、Release 13ではアプリケーション単位でトラフィック制御を行う技術(ACDC:Application specific Congestion control for Data Communication)が策定された。従来の技術では、同じQoSが要求されるサービスに対して、トラフィック制御を一律に行っていたが、ACDCは、同一QoSの異なるアプリケーション間で異なるトラフィック制御を行うことができる。これにより、通信事業者は、例えば同じパケット通信でも、災害伝言板などの緊急度の高いアプリケーションを、他のアプリケーションより優先することができる。

  2. 複数周波数間バンド分散制御
    1. 周波数間セル再選択

      世界各国でW-CDMA/HSPAからLTEへのマイグレーションが進むにつれ、LTEを複数の周波数帯で提供する通信事業者が増えつつある。しかし、複数周波数帯で運用する際に、トラフィックが周波数間で均一に分散されず、特定の周波数に偏る場合がある。その解決策として、端末が待受け中に報知情報※32で設定された確率に従い、周波数間でセル再選択を行う技術が策定された。本技術により、通信事業者が設定した確率に従って、端末が各周波数で待受けを行うことができ、通信時のトラフィックを周波数間で分散することが期待される。

    2. RS-SINR

      さらに、端末が測定する無線通信品質の新たな指標として、セル固有の参照信号を用いたRS-SINR(Reference Signal-Signal to Interference plus Noise power Ratio)を新たに策定し、端末から報告させる仕組みも策定した。RS-SINRは、端末の通信を周波数間でハンドオーバ※33により分散させる場合、ハンドオーバ先で提供可能なスループットを予測する指標として用いられる。RS-SINRを用いることで、従来のRSRQ(Reference Signal Received Quality)※34と比較し、特に通信品質が比較的良い領域で、高いスループットを実現するハンドオーバ先候補のセルを、より正確に把握することができる。

  1. IMS:3GPPで標準化された、固定・移動通信ネットワークなどの通信サービスを、IP技術やインターネット電話で使われるプロトコルであるSIP(Session Initiation Protocol)で統合し、マルチメディアサービスを実現させる呼制御通信方式。
  2. 報知情報:移動端末における位置登録要否の判断に必要となる位置登録エリア番号、周辺セル情報とそのセルへ在圏するための電波品質などの情報、および発信規制制御を行うための情報などを含み、セルごとに一斉同報される。
  3. ハンドオーバ:通信中の端末が移動に伴い基地局をまたがる際、通信を継続させながら基地局を切り替える技術。
  4. RSRQ:セル固有の参照信号の電力と、受信帯域幅内の総電力との比を表す。

4.あとがき

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.24 No.2(Jul.2016)に掲載されています。

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