2.2 無線プロトコルの機能拡張

「5G無線アクセスネットワーク標準化動向」目次

LTEとNRにおける無線プロトコルに対して、以下の3つの機能拡張が規定されている。

  1. ユーザデータを2つの基地局から送受信するためのSplit Bearer※6の拡張
    LTE DCにおいて、スループット向上を実現するために、MN(Master Node)※7が分岐点となり、コアネットワーク(CN:Core Network)※8からの下りデータをMNのキャリア、もしくはX2インタフェース※9を通してSN(Secondary Node)※10に送信し、SNのキャリアで伝送するMCG(Master Cell Group)Split BearerがRelease 12にて規定された[2](図1(a))。
    LTE-NR DCにおいて、LTE基地局がMNとなる運用では、NR側の帯域幅が大きくなるにつれて、LTE基地局でMCG Split Bearerをサポートするための処理能力やバッファの拡張を行う必要があり、装置開発・運用コストの増加につながる。そこで、LTE基地局装置の増強を抑えつつ、その装置能力によるスループットの制約を回避するために、LTE-NR DCでは、ユーザデータの分岐点をSNで設定することができるようにSCG(Secondary Cell Group) split bearerが仕様化された(図1(c)参照)。SCG split bearerは、ユーザデータをSNのキャリアでのみ伝送する、SCG bearerというRelease 12仕様で規定されたベアラ(図1(b)参照)を、MNのキャリアも用いて同時にユーザデータを伝送できるよう拡張している。図1に示す通り、MCG split bearer、SCG split bearerは、ネットワーク側からみると、ネットワークにおけるデータ分岐点が異なっている。一方、端末からは両ベアラ共に、MN、SNの2つの基地局とデータ伝送を行っていると同じように見える。従って、端末の機能としては、MCG/SCG split bearerを等価な1つのベアラと定義し、端末が対応するベアラ種別を、標準仕様上削減する試みが、現在議論されている。

    図1 LTE-NR DCにおけるU-plane bearer type

    図1 LTE-NR DCにおけるU-plane bearer type

  2. DC中のLTE-NR間RRC(Radio Resource Control)※11独立制御
    LTE DCでは、RRCプロトコルはMNと端末で終端されており、RRCメッセージをMNと端末との間でのみ送受信することができる(図2(a))。ただし、DC中に端末が接続する2つの基地局(MNとSN)は、自身で無線のリソースを管理(RRM:Radio Resource Management)している。例えば、SNを追加・変更する際には、SN自身がリソースを割り当て、X2インタフェースを介してSNとMNの間で連携を行ってから、SNのリソース設定が入っているRRCのメッセージをMNから端末に送信してもらうようにする。 LTE-NR DCでは、各ノードでRRMを行っている点に加えて、RRCプロトコルも、RAT(Radio Access Technology)※12が異なるMNとSNで独立に存在し、端末とMN、端末とSNのそれぞれでRRCを独立に終端している。つまり、MNとの連携の必要がないリソースの割当てを設定するRRCメッセージを、SNから端末に直接送信することができる(図2(b))。また、RRCの終端が独立であるため、MNとSNが端末に対してRRCの測定(測定対象周波数、測定イベント、測定内容)を独自に設定することができる。ただし、端末のRRCコネクションやコンテキストは、MNで保持・管理されているため、SNは端末のRRCコネクションをリリースし、端末をRRC_IDLE※13に遷移させることができない。

    図2 DC中のLTE-NR間RRC独立制御

    図2 DC中のLTE-NR間RRC独立制御

  3. C-plane※14信号の送信ダイバーシチ※15(RRC diversity)
    NRがスモールセル※16基地局でネットワーク展開された場合のLTE-NR DCでは、NR基地局がSNとなるケースが多い。このようなケースでは、端末とNR基地局との距離が端末とLTE基地局との距離と比較して近くなり、端末とNR基地局とのパスロスが小さくなるため、この状況下では、RRCメッセージをSNから送信したほうが端末での受信成功確率が高くなる。LTE DCでは、前述の通り、RRCメッセージはMNからしか送信できず、加えて、データを分割(split)してMNとSNから送信する仕組みはユーザデータのみが対象であったため、SNからRRCメッセージを送ることができないという制約があった。LTE-NR DCでは、シグナリングデータの通信信頼性をあげるために、これらの制約を取り除き、シグナリングデータのSplit Bearerもサポートされた。よって、MNが生成したRRCメッセージを複製し、MNおよびSNから、複製したRRCメッセージを端末に送信し、端末でのメッセージ受信成功率を高めるダイバーシチ効果が期待される(RRC diversity、図3)。

    図3 C-plane信号送信ダイバーシチ

    図3 C-plane信号送信ダイバーシチ

  1. plit Bearer:DCにおいて、マスターとセカンダリの両方の基地局を介して送受信されるベアラ。
  2. MN:DC中の端末とRRC connectionを確立する基地局。LTE-NR DCにおいて、MNは、LTE基地局(eNB)、もしくはNR基地局(gNB)がなり得る。
  3. コアネットワーク(CN):交換機、加入者情報管理装置などで構成されるネットワーク。移動端末は無線アクセスネットワークを経由してコアネットワークとの通信を行う。
  4. X2インタフェース:eNB同士をつなぐインタフェース。
  5. SN:DC中の端末に、MNの無線リソースに加えて、追加で端末に無線リソースを提供する基地局。LTE-NR DCにおいて、SNは、MNがLTE基地局(eNB)の場合はNR基地局(gNB)、MNがNR基地局(gNB)の場合はLTE基地局(eNB)がなり得る。
  6. RRC:無線ネットワークにおける無線リソースを制御するプロトコル。
  7. RAT:NR、LTE、3G、GSM、Wi-Fiなどの無線アクセス技術のこと。
  8. RRC_IDLE:端末のRRC状態の1つであり、端末は基地局内のセルレベルの識別をもたず、基地局において端末のコンテキストが保持されていない。コアネットワークにおいて端末のコンテキストが保持されている。
  9. C-plane:制御プレーン。通信の確立や切断などをするための制御信号を転送するためのプロトコル。
  10. 送信ダイバーシチ:送信アンテナ間のチャネルの変動の違いを利用してダイバーシチ利得を得る技術。
  11. スモールセル:マクロセル基地局と比較して送信電力が小さい基地局がカバーする通信可能エリアの総称。

3. CU-DU functional split and open interface

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.25 No.3(Oct.2017)に掲載されています。

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