4.2 U-plane無線プロトコル

「5G無線アクセスネットワーク標準化動向」目次

LTEのU-planeプロトコルスタック※30はPDCP(Packet Data Convergence Protocol)※31/RLC(Radio Link Control)※32/MACレイヤで構成されており、機器向けの通信(MTC:Machine Type Communication)端末のようなローエンド端末から1Gbps超えの高レートを実現するハイエンド端末まで、さまざまな端末をサポートする柔軟な仕様となっている。5Gでは、そのようなLTEのプロトコルスタックを基に設計を行い、5Gの要求条件や新たなユースケースに対応するための拡張がなされた。

  1. NR U-plane向けの主な拡張
    LTEのQoS制御※33はEPS(Evolved Packet System)※34ベアラ単位で実施されており、EPSベアラと無線ベアラは一対一関係となっている。また、LTE-NR DCを用いて、ノンスタンドアローンNRをEPCで収容する場合(文献[1]参照)、対応するレイヤ2プロトコルスタックはLTEと同じものが用いられる。
    一方、5G向けの新しいCNでは、より柔軟で細やかなQoS制御を可能とするため、EPSベアラ単位ではなく、IPフロー単位でQoS制御が可能となっている。具体的には、CNと基地局間で確立される一本のPDU(Protocol Data Unit)※35 Session Tunnelを流れる複数のIPフロー各々が個別の無線ベアラへマッピングされることが可能となる。NRレイヤ2では、このIPフローと無線ベアラのマッピングを行うために、PDCPレイヤの上に新しくSDAP(Service Data Adaptation Protocol)レイヤが導入された(図6(a))。SDAPレイヤではIPパケットがカプセリングされ、そのヘッダ内で対応するQoSを示す識別子が通知される。

    図6 NR無線I/Fプロトコルスタック

    図6 NR無線I/Fプロトコルスタック

    PDCP以下のレイヤについては、接続するCNにかかわらず、さらなる無線区間の低遅延化・高速化に対応するための変更が加えられている。例えば、大量のユーザデータを短いHARQ(Hybrid ARQ(Automatic Repeat reQuest))※36 RTT(Round Trip Time)※37内で送信可能するためには、より多くのレイヤ2処理をトランスポートブロックサイズ※38決定より前に完了させ、また、より多くの処理を並列に実施可能とする必要がある。そのために、RLCにおいてトランスポートブロックサイズに基づいて実施されるベアラ内データ多重(Concatenation)処理を非サポートとすることでスケジューリング決定前にRLC PDU生成処理を完了させることが可能とされた。また、LTEのMAC PDUでは、MAC SDUの多重に関する情報をMAC PDUの先頭で示すフォーマットとしていたため、多重処理完了後にしかMAC PDUを物理レイヤに送出することができなかったが、NRのMAC PDUでは、MAC SDUの多重に関する情報をMAC SDUの直前で示すフォーマットを定義することで、MACでの多重処理完了前にMAC SDUに対する物理レイヤの処理の実施を可能とした。NRにおけるデータフレーム構成の一例を図7に示す。上位から到来したIPパケットは、SDAPレイヤ、QoSに対応する無線ベアラへマッピングされ、無線ベアラに対応するPDCPレイヤ、RLCレイヤにて処理される。MACレイヤでは、複数の無線ベアラのRLC PDUを複数のMAC SDUとして、同一MAC PDU内に多重し、物理レイヤへ渡される。

    図7 U-planeデータフレーム構成

    図7 U-planeデータフレーム構成

  2. 高信頼通信を実現するための拡張
    NR上位レイヤの標準化では、高信頼・超低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)向けに、無線区間の通信信頼性を向上させる技術としてPDCPレイヤでの重複送信制御が議論された。端末が通信を行う無線区間の状況は、無線品質や無線区間の混雑度などによってダイナミックに変わりうるため、1つのセルの通信では高信頼通信を実現することができない可能性がある。そこで、1つの端末に対して複数のCC(Component Carrier)※39を用いて通信を行うCA(Carrier Aggregation)※40やMC(Multi-Connectivity)※41を適用することで周波数ダイバーシチ※42を用いた無線区間の通信信頼性を向上させる制御が議論された。これを実現する無線のプロトコルアーキテクチャとして、図8のように1つのPDCPレイヤ以下に複数のRLCレイヤを設置するアーキテクチャが用いられる。PDCPレイヤで処理・複製されたパケットは各RLC entity※43/論理チャネル※44へ転送され、関連付けられたCCを介して送信される。受信側のPDCPレイヤは、時間的に早く受信できたパケットを処理し、遅れて届いたパケットは重複受信として破棄する。このように同一データを複数の無線リンクを用いて重複送信することで、1つの無線リンクの無線環境が悪くなった場合でも、他方の無線リンクを用いてデータを届けることができ、信頼性の高い通信が可能となる。

    図8 PDCP重複送信におけるレイヤ2データフロー

    図8 PDCP重複送信におけるレイヤ2データフロー

  1. プロトコルスタック:プロトコル階層。
  2. PDCP:レイヤ2におけるサブレイヤの1つで、秘匿、正当性確認、順序整列、ヘッダ圧縮などを行うプロトコル。
  3. RLC:レイヤ2のサブレイヤの1つで、再送制御などを行うプロトコル。
  4. QoS制御:パケットの優先転送など、通信の品質を制御する技術。
  5. EPS:LTEおよび他のアクセス技術向けに3GPPで規定された、IPベースのパケットネットワークの総称。
  6. PDU:プロトコルレイヤ・サブレイヤが処理するデータの単位。
  7. HARQ:誤り訂正符号と再送を併用して、受信した信号の誤りを補償する技術。
  8. RTT:基地局—端末間の往復伝送に要する遅延時間。Higher Layer SplitではHARQを司るMACレイヤがDUにあるため、DU—端末間の遅延時間を考慮すれば良いが、LLSではHARQを司るMACレイヤがCUにあるため、CU-DU—端末間の遅延時間を考慮する必要がある。
  9. トランスポートブロックサイズ:物理レイヤでデータ伝達を行う単位時間当りに伝送可能な情報量。
  10. CC:CAにおいて束ねられるキャリアを表す用語。
  11. CA:1ユーザの信号を複数のキャリアを用いて同時に送受信することにより広帯域化を行い、高速伝送を実現する技術。
  12. MC:1つの端末が複数の基地局と同時に通信を行う接続形態。
  13. 周波数ダイバーシチ:ダイバーシチの一種で、異なる周波数を用いることによって受信品質の向上を図る。ダイバーシチは、複数の経路を用い、受信品質の良い経路を選択するなどして受信品質の向上を図る方法。
  14. RLC entity:ベアラ単位でRLCレイヤの処理を行う機能部。
  15. 論理チャネル:無線インタフェースにおいてどのような情報(ユーザデータ、制御情報など)を伝送させるかによって分けられるチャネル。

4.3 C-plane無線プロトコル

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.25 No.3(Oct.2017)に掲載されています。

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