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Super 3Gの技術動向 その2 Super 3Gの技術検討〜3.無線アクセスネットワークアーキテクチャと無線インターネットプロコトル

2005年6月に承認された要求条件の中で、アーキテクチャと無線インタフェースプロトコルに関連するものは以下の項目がある。

 ・低制御遅延・低伝送遅延
 ・シンプル化
 ・低コスト化
 ・現行と同等もしくはそれ以上のサービス提供能力

これらの要求条件を満たすためには、機能分担の変更も含めた検討を行い、新しいネットワークアーキテクチャおよびプロトコルの採用も視野において検討を進める必要がある。これらについても現在3GPP にて精力的に検討が進められている。以下に現状の3GPP で議論されている主な項目について、その方向性や状況を述べる。

3.1 Super 3Gアーキテクチャ

従来の3Gシステムの技術的特徴の1つに、複数の基地局を介して同時に通信を行うソフトハンドオーバ方式の採用が挙げられる。アーキテクチャ上もソフトハンドオーバをサポートするため、基地局の上位局である無線ネットワーク制御装置(RNC:Radio Network Controller)注意1に主要な無線機能を集中して配置する構成となっている。Release 5注意2で機能追加されたHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)では、パケット系トラフィックに親和性の高い共有チャネル(SCH:Shared CHannel)を採用し、基地局のスケジューリング機能による高効率伝送を実現している。このHSDPAの機能追加部分は、従来のRelease 99注意2アーキテクチャへの整合性が適切に考慮されているが、HSDPAは主に基地局の機能で構成される点や単一の基地局とのみ通信を行いハンドオーバの際に基地局を切り替えるハードハンドオーバを行う点で従来とは異なる部分も多く、RNCと基地局間の機能の重複や制御が複雑化している部分がある。

これに対してSuper 3Gでは、飛躍的なパフォーマンスの向上や装置の低コスト化の実現を最重要課題と位置付け、ソフトハンドオーバを非採用とすることで、共有チャネル型のアクセス方式に適した機能配置の実現や無線制御のシンプル化を目指すことを基本方針としている。

システム構成上の大きな特徴として、従来のRNC機能を図5の基地局のeNB(evolved Node B)およびコアネットワーク系装置のMME/UPE( Mobile Management Entity/User Plane Entity)に分散して配置し、RNC自体を削減することを前提としている。装置種類が削減されることにより、開発規模の削減や運転管理面での稼働が軽減できるというメリットがある。また、装置処理遅延の削減など、基本的なパフォーマンスの向上も期待される。

図5 Super 3GシステムにおけるUTRAN アーキテクチャ

従来RNCに配置されていた機能(RRM(Radio Resource Management)、RRC(Radio Resource Control)、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)注意3、RLC(Radio Link Control)、 MAC(Medium Access Control))は、図6のようにeNBとMME/UPEに適宜配置されるが、その中で特徴的な点について説明する。

図6 Super 3Gシステムにおける機能の配置イメージ

(1)RRCとRRM機能

RRCはRRMと連動し、呼受付制御やハンドオーバなど移動端末の基本的動作を制御する重要な機能である。共有チャネル型のアクセス方式では無線リソースの多くがMAC機能レベルで管理されるため、図6のようにRRCをMAC機能同様にeNBに配置することでRRMとの連携が容易になり、処理遅延の短縮化や周波数利用効率の向上を図ることができる。また、同一eNB内に閉じたセル間ハンドオーバはeNB内での処理が可能となるため、多セルを収容する装置構成ではメリットが大きい。一方、eNBをまたがるハンドオーバは、eNB間にてRRCおよびRRM情報の送受を行う。

(2)RLCとMAC機能

RLCとMACは送受信信号の多重分離、再送、順序整列などの機能を有し、実効スループットや伝送遅延品質を左右する重要な機能である。従来の3GシステムではRLCレイヤの再送機能がRNCに配置されているため、高速スループットを目指すには以下の課題があった。

  • 再送処理には、RNCと基地局間の伝送遅延と装置内処理遅延が含まれ、RTT(Round Trip Time)注意4の短縮が困難
  • 最適スループットを得るには、RNCと基地局間で高速なフロー制御機能が必要

Super 3Gは無線ピーク伝送速度が100Mbit/sであり、TCPレベルでも同様の速度を得るにはRTTの短縮が極めて重要である。そこでSuper 3Gでは、図6のようにRLC、MAC をeNB のみに配置することでRTTの最小化を図るとともにフロー制御機能を不要とする。ただし、ハンドオーバ時にeNB に滞留している未送信データに関しては、従来、基地局(MAC)では破棄しRNCの再送機能(RLC)で救済していたが、Super 3GではeNB間で転送する機能を新たに追加する。

(3)セキュリティ機能

ユーザデータや非アクセス層(NAS:Non-Access Stratum)のプロトコルに関するセキュリティはMME/UPEに配置する。ただし、RRCに関するセキュリティはeNBに配置する前提としている。近年はオフィスなどの屋内エリアのカバレッジや無線容量を確保するため基地局の小型化/経済化が進み、以前より身近な場所に設置される傾向があり、一般ユーザが基地局に不正にアクセスするリスクも増えると予想される。したがって、通信の秘密を遵守するため高いセキュリティが必要なユーザデータやNASのプロトコルに関しては、ドコモの管理する局舎内に設置されるMME/UPEに配置することになった。

(1)〜(3)以外にも、冗長性や負荷分散を目的としたMME/UPEとeNB間のプーリング機能注意5、基地局間通信をサポートするトランスポートネットワークレイヤ、MBMS(Multimedia Broadcast Multicast System)注意6やLCS(LoCation Service)注意7技術をサポートするためのネットワーク同期などに関して検討を進めている。

  • 注意1 無線ネットワーク制御装置:3GPP上規定されている、無線リソースの管理、移動端末の制御、基地局の制御を行うノード。
  • 注意2 Release **:3GPP仕様のバージョンを示す。Release99は1999年に最初の標準化仕様として策定された。HSDPA機能は2005年にRelease5として追加策定されている。
  • 注意3 PDCP:レイヤ2におけるサブレイヤの1つで、秘匿、正当性確認、順序整列、ヘッダ圧縮などを行うプロトコル。
  • 注意4 RTT:装置間の往復伝送に要する遅延時間であり、再送時では初回送信と再送を行うまでに要する時間。
  • 注意5 プーリング機能:複数の装置と接続性を有し、呼ごとに接続先を変更可能とする機能。
  • 注意6 MBMS:マルチメディアデータを不特定多数の相手に配信するブロードキャスト、または特定した相手に配信するマルチキャストを行うシステム。
  • 注意7 LCS:移動端末の位置を特定するサービス。

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.14 No.3に、掲載されています。