3GPP LTE/SAE標準仕様完成における活動と貢献〜3.3GPP TSG SA/CTにおける活動と貢献

3.2 SAEアーキテクチャ

(1)標準化経緯とドコモの寄与

ドコモは、前述のサービス要求条件仕様書に基づき、無線アクセスに依存しないモビリティ制御やQoS制御などの共通的機能については、3GPPのみでなく、3GPP2注意1、NGN(Next Generation Network)注意2などとの共通化を目指す、AIPNアーキテクチャを積極的に提唱した。これは、基盤技術となるネットワーク制御が、IPベースの汎用的な技術で実現され、3GPP事業者のみならず、多様な移動系・固定系事業者において広く利用されることで、ローミング・相互接続性の向上や装置コストの低減が期待できるためである。

TSG SA-WG2では、ドコモが提案する、IPベースプロトコルの導入による高い汎用性を実現するAIPNアーキテクチャと、既存プロトコルからのマイグレーションを重視するGPRS(General Packet Radio Service)ネットワーク拡張アーキテクチャの2つの考え方について、長く検討・議論がされてきた。ドコモは、2つのアーキテクチャが共に、将来、多種多様なアクセスシステムを収容するIPベースコアネットワークを目指すものであるという概念を提唱した。この概念は、各アーキテクチャを支持してきた3GPPメンバーに幅広く受け入れられ、2006年12月のTSG SA#34プレナリ会合において、AIPNアーキテクチャとGPRSネットワーク拡張アーキテクチャの2つを包含する「SAEアーキテクチャ」が合意された[6]。SAE アーキテクチャでは、ドコモがAIPNアーキテクチャで一貫して主張してきたIPベースモビリティ制御方式が採用されている。

IPベースモビリティ制御技術は、AIPNアーキテクチャ提唱時にオペレータの要求条件を満たすものがなかったため、ドコモが積極的に国際標準化を行った技術である。標準化活動にあたっては、IP2(IPbased IMT network Platform)研究および実証実験[1]において検討を進めてきたモビリティ方式を、インターネット技術の標準化団体であるIETF(Internet Engineering Task Force)へ入力し、2006年1月のワーキンググループ(WG)立ち上げから、2008年8月のPMIPv6(Proxy Mobile IPv6)[7]の標準仕様完了まで、3GPP導入を目指し、一貫してその活動を主導した。

(2)SAE IPベースネットワークアーキテクチャ

IP ベースモビリティ制御技術を適用したSAEアーキテクチャを図2に示す。SAEは、GPRS[8]で規定される機能エンティティに加え、LTEアクセスシステムの基地局であるeNodeB(eNB)を収容するMME(Mobility Management Entity)およびS-GW(Serving-Gateway)と、i-modeやIMSといったコアネットワーク外のパケットネットワークとの接続点であり、3GPPアクセスおよび非3GPP無線アクセスを収容するP-GW(Packet Data Network-Gateway)、QoSおよび課金制御などを実施するPCRF(Policy and Charging Rules Function)から構成される。

図2 SAEアーキテクチャ

MMEはS1-MMEインタフェースによりeNBを収容し、端末の移動管理、認証(セキュリティ制御)およびユーザデータ転送経路の設定処理を行う。端末の移動管理および認証処理は、S6aインタフェースによりHSS(Home Subscriber Server)と連携して行う。移動管理では、LTEと3Gの無線エリア間の移動による位置登録処理を効率化するため、MMEはS3インタフェースを介して、3Gコアネットワークの論理ノードであるSGSN(Serving GPRS Support Node)と連携した位置登録制御を行うことが可能である。また、MME はeNBおよびS-GWとの間で、S1-MMEおよびS11インタフェースにより制御信号の送受信を行い、S-GWからeNBの区間であるS1-Uインタフェースにおけるユーザデータ転送経路の設定・解放を行う。

S-GWは、ユーザデータの伝送を行う在圏パケットゲートウェイであり、eNBとの間でユーザデータの送受信を行うとともに、S-GWとP-GW区間のS5インタフェースにおいて、接続する外部パケットネットワーク(PDN)単位の通信経路の設定・解放を実施する。また、移動端末が3Gに在圏する場合、S4インタフェースにて接続するSGSNとの間で制御信号の送受信を行い、S-GWとSGSNとの間のユーザデータ転送経路の設定を行う。すなわち、S-GWはLTEと3G無線のユーザデータ転送における経路切替えポイントとなる。データ転送においては、S-GWはGxcインタフェースにより、PCRFから通知されたポリシー制御情報に従ってIPパケットの伝達品質制御などを行う。

P-GWは、SGiインタフェースを介して、PDNと接続し、IPアドレスの割当てなどを実施する。また、P-GWは、移動端末がLTEや3Gといった3GPPで規定する無線アクセスと、非3GPP無線の間を移動する場合において、ユーザデータ転送の切替えポイントとなる。P-GWはGx インタフェースにより、PCRFから通知されたポリシー制御情報に基づき、IPパケットの伝達品質制御などを行う。

PCRFは、P-GW、S-GWおよび信頼できる非3GPP無線アクセス(Trusted Non-3GPP IP Access)における通信品質制御を行うための、QoS や課金方法などのポリシーを決定し、それぞれ、Gx、Gxc、Gxaインタフェースを介してポリシー制御情報を配布する。

ePDG(enhanced Packet DataGateway)は公衆無線LANなど、セキュリティ上信頼できない非3GPP無線アクセス(Untrusted Non-3GPP IP Access)を収容する場合に、移動端末が接続するゲートウェイである。ePDGはS2bインタフェースによりP-GWと接続される。

そのほか、HSS、3GPP AAA server、SGSNについても従来の3Gと同様に、それぞれ、加入者プロファイルの保持、非3GPP無線アクセスから接続するユーザの認証、3G無線アクセスの収容などの機能を提供する。

(3)SAEアーキテクチャの特徴

SAEアーキテクチャでは、AIPNの要求条件を具現化しており、機能面やサービス提供面に関して、次のような特長を有する。

1異無線間にまたがる端末の移動をサポート
P-GW がモビリティ制御のアンカー機能注意3を提供することで、移動端末が通信中に異なる無線アクセス間を跨る移動を行っても、同一のIP アドレスを引き続き利用して、通信を継続することが可能である。

2パケット交換に特化
SAE は、ネットワークの簡素化および効率化を図るため、パケット交換方式のみを規定し、3Gネットワークで規定される回線交換方式は、パケット交換ネットワーク上で同様のサービス提供が可能なIMSにより提供する。また、ネットワーク移行を想定し、音声サービスを継続するIMSと回線交換の切替方式も規定されている[9]。

3常時接続を前提としたネットワーク制御
SAE では、パケットの送受信にかかる制御遅延を最小化するため、移動端末がネットワークに登録(アタッチ注意4)すると同時に、事前に設定されたPDNへ接続する。コアネットワークは常時、PDNとの通信経路が確立されているため、移動端末が通信を実際に始める場合に、無線区間のみを設定するだけでよく、接続遅延の短縮が実現可能となる。

4複数のPDNへの同時接続が可能
SAEでは、IMSへ接続し、音声サービスを行いつつ、i-modeサービスを楽しむといった、複数のサービスを同時に実現することが可能である。これにより、3Gで実現可能である、回線交換とパケット交換の同時利用に等しいサービスが提供可能となるほか、パケットサービスの種類に応じて、接続先PDNを変更することも可能となる。

53G回線交換サービスとの連携制御
LTE無線に在圏あるいは通信を行う際、3G回線交換サービスの発着信を可能とするメカニズムが用意されている。これにより、SAEへの移行時においても、既存の3G回線交換サービスを提供することができる。

  • 注意1 3GPP2:第3世代移動通信システム(3G)の標準化プロジェクトの1つで、IMT-2000規格のうち、cdma2000方式の技術仕様の標準化を行っている。
  • 注意2 NGN:ITU-Tなどで検討が進められている、次世代AIPN。
  • 注意3 アンカー機能:移動端末の在圏エリアに合わせて、通信経路の切替えを行い、移動端末あてのパケットを在圏エリアへ転送する機能。
  • 注意4 アタッチ:移動端末の電源投入時などにおいて、移動端末をネットワークに登録する処理。

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.17 No.2に、掲載されています。