容量/エリア拡大・国際ローミングを実現する携帯電話無線回路技術〜2.無線周波数を取り巻く環境
IMT-2000方式への周波数割当てに関しては、1992年の世界無線通信主管庁会議(WARC-92:World Administrative Radio Conference-92)において、2GHz帯を用いることが世界的に決定された。その後、2000年の世界無線通信会議(WRC-2000:World Radiocommunication Conference-2000)において、800/900MHz帯、1.7〜1.9GHz帯、そして2.5GHz帯が追加された。また、このWRC-2000では、GSM/GPRS(General Packet radio Service)/EDGE(Enhanced Data rates for GSM Evolution)などの第2世代携帯電話システムもIMT-2000(International Mobile Telecommunication 2000)方式の1つとして定義され、現在のIMT-2000方式の定義が確定した。
これらを受けて、国内では、IMT-2000方式用にまず2GHz帯が分配された。その後、携帯電話利用者の急増による周波数資源不足と周波数有効利用[4]の観点から、従来PDC(Personal Digital Cellular telecommunication system)[5]などが使用していた800MHz帯の再編、1.5GHz帯の整備を行い、さらに、1.7GHz帯の新規分配が行われ、これらの周波数がIMT-2000方式に使用できるようになった。
こうした国内外での周波数配分を受けて、IMT-2000方式は世界共通の移動通信システムとして認知され、3GPP(3rd Generation Partnership Project)において標準規格策定作業が進められていった。2007年12月時点の周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)1用途として定義されている周波数帯を表1に示す[6][7]。ここで、GSMに関しては、規格上、14の帯域が定義されているが、世界的に利用頻度の高い4つの帯域のみ記載している。W-CDMAとしては、現状、11の帯域が定義されている。図1は表1の各帯域を周波数軸上に図示したものである。なお、参考までに、移動端末への搭載が要望されているGPS(Global Positioning System)およびWLAN(Wireless LAN)で使用される周波数帯を、図1に示す。これらの図表から分かるように、移動端末に使用されている周波数は、800MHz〜2.7GHzの範囲となっており、800/900MHz帯と1.7〜2.0GHz帯に配置が集中していることが分かる。しかしながら、現状、全世界共通で使用できる周波数帯は存在していない。そのため、どの帯域をいくつ搭載するかが、移動端末を開発するうえでの大きな設計要素となっている。
表1 3GPP周波数表 | |||||
方式 | 帯域 | 上り周波数 | 下り周波数 | 送受間隔 | 使用地域、用途 |
W-CDMA | Band I | 1,920〜1,980MHz | 2,110〜2,170MHz | 190MHz | Global(南北米を除く) |
Band II | 1,850〜1,910MHz | 1,930〜1,990MHz | 80MHz | 米国 | |
Band III | 1,710〜1,785MHz | 1,805〜1,880MHz | 95MHz | 欧州 | |
Band IV | 1,710〜1,755MHz | 2,110〜2,155MHz | 400MHz | 米国 | |
Band V | 824〜849MHz | 869〜894MHz | 45MHz | 米国、米国ローミング用 | |
Band VI | 830〜840MHz | 875〜885MHz | 45MHz | 日本, Band Vの一部 | |
Band VII | 2,500〜2,570MHz | 2,620〜2,690MHz | 120MHz | 欧州, 韓国 | |
Band VIII | 880〜915MHz | 925〜960MHz | 45MHz | 欧州 | |
Band IX | 1,749.9〜1,784.9MHz | 1,844.9〜1,879.9MHz | 95MHz | 日本, Band IIIの一部 | |
Band X | 1,710〜1,770MHz | 2,110〜2,170MHz | 400MHz | 米国 | |
Band XI | 1,427.9〜1,452.9MHz | 1,475.9〜1,500.9MHz | 48MHz | 日本 | |
GSM | GSM850 | 824〜849MHz | 869〜894MHz | 45MHz | Band Vと同じ |
GSM900 | 880〜915MHz | 925〜960MHz | 45MHz | Band VIIIと同じ | |
GSM1800 | 1,710〜1,785MHz | 1,805〜1,880MHz | 95MHz | DCS帯, Band IIIと同じ | |
GSM1900 | 1,850〜1,910MHz | 1,930〜1,990MHz | 80MHz | PCS帯, Band IIと同じ |
:FOMA用帯域 :ローミング用帯域
FOMAサービスのエリア展開の状況を図2に示す。この図に示すように、ドコモでは、前述の状況下において、総務省よりW-CDMA用途で800MHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯の3周波数帯の割当てを受け、地域や用途に応じて周波数帯を使い分けることで、広範囲にFOMAサービスを展開している。また、海外渡航者に対しては、世界各国の渡航先の通信事情を勘案したうえで、ほぼ全世界で使用できるGSM/GPRSと、FOMAで使用しているW-CDMAを用いてシームレスなローミングサービスを提供している。FOMA移動端末の基本仕様を表2に示す。この表に示すように、FOMA移動端末には、現在、W-CDMAは3帯域、GSM/GPRSは4帯域を最大構成とし、移動端末の商品コンセプトに応じて複数の周波数帯を選択して搭載されている。このうち、W-CDMAに関しては、Band Iが欧州、韓国、東南アジア地域向けのローミングバンドとして用いられている。米国では、Band VとBandⅥがほぼ一致した配置であることから、これら2帯域共用無線送受信回路を用い、Band Vとして動作させることでローミングを実現している。
表2 移動端末の基本仕様 | ||
項目 | 仕様 | |
方式 | W-CDMA | GSM |
送受信周波数 | Band I Band VI(& Band V) Band IX |
Low band:GSM850/900 High band:GSM1800(DCS)/ 1900(PCS) |
アクセス方式 | DS-CDMA | TDMA |
デュープレックス方式 | FDD | FDD |
無線伝送レート | 3.84Mcps | 270.833kbit/s |
変調方式(データ/拡散) | 上り:BPSK/HPSK 下り:QPSK/QPSK |
GMSK |
占有帯域幅 | 5MHz以下 | 200kHz以下 |
最大送信電力 | Class3:+24dBm | Low band:+33dBm High band:+30dBm |
不要輻射 | ITU-R Rec. SM.329-10 | |
ACLR1(5MHz離調):−33dBc以下 ACLR2(10MHz離調):−43dBc以下 |
±200kHz:−30dBc以下 ±400kHz:−60dBc以下 |
本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.16 No.2に、掲載されています。