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容量/エリア拡大・国際ローミングを実現する携帯電話無線回路技術〜4.Super 3G標準搭載に向けた無線送受信回路技術の技術課題

4.2 標準搭載に向けた技術課題

今後の無線送受信技術の展開を図6に示す。Super 3Gを普及させていくには、移動端末をW-CDMA/GSM機能にLTEモード機能を追加したトリプルモード(GSM/W-CDMA/LTE)としていく必要がある。また、ユーザトラフィックは増加傾向にあり、国内では今後も周波数追加が計画されている[18]。さらに、国際ローミングに対しても、GSM/WCDMAだけでなく、EDGE/HSPA、さらにはLTEへの拡張、海外周波数への対応も必要になってくるものと考えられる。このため、無線送受信回路は、周波数と機能の両面から規模増大および複雑化の方向に向かっている。一方、魅力ある移動端末を発売していくうえでは、これまで以上に、低価格化、品質向上が必要である。それに加え、タイムリーに移動端末を発売するため、開発期間の短縮や無線機能搭載の柔軟性向上も要求されると予測される。これら相反した要求を満足させるため、今後も無線送受信回路の開発負担は増えていくことが懸念される。

図6 今後の無線送受信技術の展開

別の視点から図5に示す最新モデルでの無線送受信回路構成を眺めてみると、3章で説明したように、今後、トランシーバ部に関しては、デジタルRF方式をベースとして、半導体プロセスのディープ・サブミクロン注意1化に伴い、自然と小型化されていくことが予測される。しかしながら、フロントエンド部に関しては、方式ごと、帯域ごとに個別にデバイスを実装しているため、部品点数が多く価格面での要求を満たすことは困難である。また、フロントエンド部を構成する個々のデバイスの小型化は、実装技術の高密度化以上に進んでいるため、現状の構成方法はさらなる小型化には適していない。

図5 2008年での無線送受信回路構成(予測)

今後は、この点の改良が必要であり、トランシーバICの構成変更も含めて、フィルタ、アイソレータなどの周波数依存部品の削減、方式間の回路共用、いわゆる、ソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)注意2を志向した技術開発が必要である。このSDR向けの送受信回路技術に関しては、各システムで基本技術の検討[19]〜[22]が進んでおり、その技術をどのように移動端末向けの送受信回路に応用していくかが今後重要になってくる。しかしながら、現段階では完全なるSDR移動端末を実現する技術は確立していないため、周波数依存部品(特に、デュープレクサ)を全部削除することはできない。したがって、この部分に対しては、モジュールを前提とした構成面でのプラットフォーム化によりコスト低減を行っていくことが望ましい。

これらの観点から描いたSuper 3G標準搭載時期に理想とする無線送受信回路の構成を図7に示す。この図7に示すように、送信信号の適応制御が可能な送信回路とデュアルレシーバ構成のトランシーバICをベースに、マルチバンド/マルチモード対応PA、メインとサブの2つのフロントエンドモジュールの計4つの主要部品(TCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)注意3を除く)で構成することで、Super 3Gを標準搭載した移動端末の実現が容易になるものと考える。

図7 次世代移動端末の無線送受信部構成

  • 注意1 ディープ・サブミクロン:0.2µM以下の半導体プロセスルールのこと。
  • 注意2 ソフトウェア無線(SDR):周波数帯、変調方式、出力などの無線パラメータをソフトウェアによって設定、変更できる無線もしくはそれらを実現するための技術。
  • 注意3 TCXO:温度に対する周波数の偏りを補正する機能を備えた水晶発信器。

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.16 No.2に、掲載されています。