報道発表資料

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(お知らせ)妊婦の病気の予兆を示すライフログや体内物質の変動パターンが明らかに
-妊娠期間中に発症する病気の予防や早期発見に道筋-
<2019年3月5日>

株式会社NTTドコモ
国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構

株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)と国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構(以下、ToMMo)は、妊娠期間中に発症する病気の予防・早期発見方法の確立をめざして共同研究(以下、本共同研究)を実施し、妊婦の病気の予兆を示すライフログ1や体内物質2の変動パターンを明らかにしました。

4年4か月にわたって実施した本共同研究では、ドコモがこれまで培ったビッグデータ解析技術および機械学習などのAI(人工知能)技術と、ToMMoのゲノム3情報等解析技術および生命情報科学技術を組み合わせたデータ解析を進めることで、次のことが明らかとなりました。

  1. 妊婦の病気の予兆を示す血圧や体重増加量、睡眠の質、活動量などのライフログや、血液中や尿中に含まれる特定の体内物質の変動パターンを見出し、病気を発症しなかった妊婦と発症した妊婦との間で、その変動パターンが大きく異なることを確認しました。本成果は、ライフログや体内物質の変動から病気の発症予兆や発症リスクをAIでとらえることで、発症リスクが高い妊婦への生活習慣の改善提案や、産科医などによる早期診療に活用することができ、病気の発症を未然に防ぐ個別化予防・医療の実現に繋がると期待されます。
  2. 分娩日が近づくにつれて、血液中や尿中に含まれる特定の代謝物濃度に特徴的な変動があることが分かりました。本成果は、AIによって実際の分娩日を予測することに活用でき、妊婦やご家族が出産に向けた計画を立てやすくなります。また、医療機関においても、分娩受け入れ態勢を事前に整えることができ、より安心・安全な出産への貢献が期待されます。
  3. 妊婦の特定の遺伝子に変異があると、産まれてくるお子さんの出生体重が低くなることが分かりました。本成果は、低出生体重児が産まれる遺伝的なリスクを把握し、産科医などによる早期診療に活用することで、低体重での出産を未然に防ぐ個別化予防・医療に繋がると期待されます。

本共同研究は2019年3月31日(日曜)で終了となりますが、ToMMoは、本共同研究で培ったノウハウやデータを幅広く社会に発信すると共に、個別化予防・医療の実現のための基盤開発および解析をさらに進めていきます。
また、ドコモは、パートナーとともに新たな価値を協創する「+d」4の取り組みの一環として、本共同研究成果のさらなる検証と実用化に取り組むことで、ひとりでも多くの妊婦が病気を経験することなく安心して出産を迎えることができる社会の実現をめざします。

なお、本件の詳細データは別紙の通りです。

  1. ライフログ:血圧、脈拍、室温、体温、体重、活動量、体調、睡眠状況、胎動、食事内容、服薬内容など、個人の健康状態と生活習慣を反映した記録。
  2. 体内物質:血液・尿・歯科検体などに含まれる物質で、DNA、RNA、代謝物、細菌叢などに関する情報が得られる。
  3. ゲノム:生物が持つ、遺伝に関わる情報の全体。
  4. +d:ドコモの中期的な取り組みとして多様な事業領域でパートナー企業とともに進める付加価値創造の取り組み。

(参考)報道発表資料
ヘルスケアデータとゲノム解析を活用した妊婦の疾患の予防・早期発見に向けた共同研究を開始<2014年11月19日>
妊婦の病気の予防に向けた研究において参加者募集が完了-世界最大規模のライフログデータと生体データの統合解析を開始-<2016年11月15日>

別紙 本共同研究成果の詳細データ

1. 本共同研究の目的

本共同研究では、妊婦に特有な病気(妊娠高血圧症候群・早産・妊娠糖尿病など)の予兆を捉え、早期発見によって症状を軽減させ、または予防する方法の確立に向けた検討を進めてまいりました。
これらの病気の多くが、遺伝的な要因と環境からの要因が複合的に相互作用して発症することから、その発症原因を探るためには、日々の環境要因の変化を連続的に把握する事が重要です。しかし、これまで行われてきた調査票等による環境情報の取得は、半年に1回程度の自己回答方式によるため、取得頻度と精度に限界がありました。また、妊婦の血液や尿に含まれる体内物質の妊娠期間中の変化や、それぞれの病気となった妊婦と健常のまま出産された妊婦のライフログや体内物質の差異統合的に解析した研究はこれまでありませんでした。
そこで、本共同研究では、体内物質(DNA1、RNA2、代謝物など)と日々のライフログ(血圧、脈拍、体重、体温、活動量、睡眠、食事など)を組合せた、統合的なデータ解析を行い、高頻度かつ客観的な精度のライフログデータと体内の状態変化を捉えることで、妊娠期間中に発症する病気の個別化予防・早期発見方法の確立をめざしました。

2. 本共同研究の実施概要

  1. 研究計画名:妊婦の時系列でのオミクス3、ゲノム情報と日々のライフログとの統合情報解析
  2. 実施期間:2014年11月19日(水曜)~2019年3月31日(日曜)
  3. 実施場所:東北大学
  4. 実施経過:2014年11月より共同研究を開始し、2015年2月からは、ToMMoの実施する三世代コホート調査4に参加された妊婦を対象に、「マタニティログ調査」の名称で本共同研究の参加者を東北大学病院にて募集しました。参加者数はほぼ目標どおりの302名となり、2016年11月をもって研究参加される妊婦の募集が完了しました。
    参加者からは、妊娠初期から産後1か月まで定期的に血液・尿・歯科検体などの試料を提供いただき、また、ドコモが本共同研究向けに開発したスマートフォン用アプリ等を使用して血圧や体調などのライフログを登録いただきました。参加者から得られた毎日のライフログは最終的に約600万件、血液・尿・歯科検体などの試料は約8,000本にも及び、妊婦を対象とした研究で世界最大規模です。
    なお、マタニティログ調査の研究設計と研究参加妊婦の背景に関する詳細は、医学分野の学術論文誌BMJ Open5に掲載されました。

3. ドコモとToMMoの役割分担(図1)

  1. ドコモの強みであるモバイル端末とネットワークを利用したモバイル・ヘルスケアの基盤を活用し、妊婦の毎日のライフログを収集しました。
  2. 年間約900件の分娩を取り扱っている東北大学病院にて、妊娠初期から産後1か月まで定期的に妊婦の血液・尿・歯科検体などの試料を収集し、ドコモと共同で試料の詳細なデータ化を行い、妊婦の生活習慣や体調変化などを統合的に捉えたデータ基盤を構築しました。
  3. ドコモがこれまで各種時系列データの分析を通して培ったビッグデータ解析技術および機械学習等のAI技術と、ToMMoの持つゲノム情報等解析技術および生命情報科学技術を組み合わせ、共同でデータ解析を実施しました。
画像:図1 役割分担
図1 役割分担

4. 本共同研究の成果

  1. 統合的な解析を行える妊婦のデータ基盤を構築
    妊娠期間にわたって妊婦の生活習慣や体調変化などを捉えたデータ基盤を構築しました。各種ライフログの取得率は妊娠期間を通して8割以上となり、日々の妊婦の活動や体調を統合的に解析するのに十分なデータとなりました。また、血液・尿・歯科検体などの経時的に採取した試料については、表1のとおり複数の層において詳細にデータ化しました。これにより、遺伝的要因と環境要因が影響し、症状や体調変化にいたる過程を把握することが可能となりました。
表1 生体試料のデータ化
試料 取得済みデータ
血液 数百万種類の遺伝子変異
血液 数万種類のRNAの発現量(多時点)
血液・尿 数百種類の代謝物の量(多時点)
唾液・歯垢 数百種類の細菌叢の構成比(多時点)
  1. 経時的なデータ解析
    上記のライフログや代謝物、ゲノムなどを統合的かつ経時的にデータ解析することで、妊娠期間中に発症する病気に関係する数々の新しい知見が得られました。ここでは、その例をいくつかご紹介します。

<妊娠経過によるライフログ・体内物質の変動>
妊娠経過に伴い、様々なライフログがダイナミックに変化することを、俯瞰的に捉えることに成功しました。例えば、図2からは、病気を発症しなかった健常妊婦において、妊娠経過に伴い子宮収縮回数や体重が増加する一方、基礎体温や一日の活動量が低下する様子が分かります。また、健常妊婦と病気を発症した妊婦では、妊娠期間を通した各種ライフログの変動パターンに大きな違いがあることが分かりました。例えば、妊娠高血圧症候群を発症した妊婦では、健常妊婦と比較して、早い時期から家庭血圧が高い傾向を示し、また、妊娠期間を通して睡眠の質が悪いことなどが分かりました。これらの成果は、ライフログの変動から病気の発症予兆をAIがとらえ、発症する可能性が高い妊婦には生活習慣の改善を提案し、産科医等による早期診察・処置を行うことを可能とするもので、病気の発症を未然に防ぐ個別化予防・医療の実現が期待されます。

図2 妊娠期間を通した各種ライフログの変動パターン(赤が高値、青が低値)
図2 妊娠期間を通した各種ライフログの変動パターン(赤が高値、青が低値)

<分娩前の代謝物の変動>
正常分娩となった症例の分娩日と尿中・血液中の代謝物の変動の関連を調べると、分娩日が近づくにつれて特定の代謝物濃度に特徴的な変動があることが分かりました。例えば分娩の約2週間前から分娩日まで継続して増加している代謝物が見つかりました。このような特定の尿中・血液中の代謝物濃度変化をいくつか組み合わせて用いることで、実際の分娩日をAIによって予測することに活用でき、妊婦やご家族が出産に向けた計画を立てやすくなります。また、医療機関側においても、事前に分娩受け入れ態勢を整えることができ、より安心・安全な出産への貢献が期待されます。

<ゲノム変異による出生体重の違い>
妊娠期間中に発症する病気に関連して低出生体重児が近年増加しており、遺伝的な関連を調べるため、出生体重に関連する妊婦のゲノム変異を探索したところ、産まれてくるお子さんの出生体重に特異的に関連する遺伝子変異を見出しました。遺伝的に低出生体重児となりやすいか否かが事前にわかり、そのリスクが高い場合は、産科医等による早期診察・処置を行うことで低体重での出産を未然に防ぐ個別化予防・医療の実現が期待されます。

なお、本共同研究成果の一部については、2019年3月13日(水曜)からパリにて開催される産婦人科学分野の国際会議SRI(Society for Reproductive Investigation)2019にて発表を行う予定です。
妊娠期間中に病気を発症すると、その後の母親と産まれてくるお子さんの生活習慣病発症リスクが増大することが知られており、ひとりでも多くの妊婦が病気を経験することなく安心して出産を迎え、社会的課題の一つでもある生活習慣病の低減に貢献できるよう、共同研究成果のさらなる検証と実用化に取り組んでまいります。

  1. DNA:ゲノム(遺伝に関わる情報の全体)を構成する物質。
  2. RNA:DNAに記載された遺伝子の一部が転写されて作られた物質で、主にタンパク質合成や情報伝達に使われる。
  3. オミクス:DNA、RNA、代謝物、細菌叢など、多層の分子情報を統合的に解析する学問。
  4. 三世代コホート調査:ToMMoが2013年7月19日より開始した、妊婦と産まれた子ども、その父、祖父母を対象とした長期健康調査。
  5. Sugawara J, Ochi D, Yamashita R, et al. Maternity Log study:a longitudinal lifelog monitoring and multiomics analysis for the early prediction of complicated pregnancy. BMJ Open 2019;9:e025939.

報道発表資料に記載された情報は、発表日現在のものです。仕様、サービス内容、お問い合わせ先などの内容は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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