地域からのお知らせ(北陸)

~心エコー図の専門医が不足する地方で遠隔診療を~
高画質映像伝送システムを用いた経食道エコー画像のリアルタイム伝送実験
手術室外の医師から手術室内への医師への円滑な指示に成功

2021年12月23日

 金沢大学附属病院検査部の森三佳助教と先端医療開発センターの野村章洋特任准教授らの研究チーム、ならびに株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)は共同で、モバイルを活用した高画質映像伝送機材を用いた経食道エコー画像の遠隔地へのリアルタイム伝送の実証実験を実施いたしました。

 本研究では、経カテーテル大動脈弁置換術において、ドコモが提供する高画質映像伝送システム「LiveU(ライブユー)」を用い、手術室外にいる医師へリアルタイムで経食道エコー図画像を送信し、画質が手術室と比べて同様であり、遅延の問題もなく判読できることを確認いたしました。また、手術室外の医師は映像を確認しながら、TV会議システムを介して手術室の医師やスタッフにコメントや指示を円滑に実施することができました。

本実証実験のイメージ図

 本実証実験は、心エコー図の専門医が不足している地方において、高画質画像伝送システムによる遠隔医療の可能性を検証するものです。今後ますますこのような遠隔診療に対するニーズは高まると想定されており、医療現場における実運用を見据えた実証に取り組みながら、遠隔経食道エコー画像伝送システムの社会実装に向けた課題の抽出や運用方法の検証を引き続き行います。

  • 本実証実験は、ドコモが2020年9月30日(水曜)に報道発表した「5Gを活用した映像伝送ソリューションの医療機関向けモニタープログラム」(以下、モニタープログラム)を活用した取り組みです。

実証実験の概要

■実証実験の背景

 昨今の超高齢社会において、加齢による弁の変性を主体とした大動脈弁狭窄症(aortic stenosis, AS)や僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation, MR)などの構造的心疾患(structural heart disease, SHD)が年々増加しております。リアルタイム3次元経食道心エコー図検査(transesophageal echocardiography, TEE)の登場以降、SHDの病態解明が飛躍的に進み、従来のような開胸の外科手術以外に、カテーテル治療や低侵襲外科手術が開発されています。
 心エコー図検査はSHD患者の治療前後の評価や治療のガイドなどにおいて、主要な役割を担っています。一方で、心エコー図検査を専門とする医師(以下、専門医)は大都市圏以外では極めて限られており、少数の専門医でどのように対応するかが課題となっています。

■実証実験の概要

1.実施内容

 手術室の超音波診断装置とドコモが提供するモバイル型の高画質映像伝送システム「LiveU」を接続し、エコー画像を手術室外の医師へ伝送し、専門医がリアルタイムで映像を確認しました。また、確認した画像をもとに、遠隔環境から専門医が手術室の医師やスタッフへリアルタイムにコメントや指示を行いました。

2.実証実験実施日

2021年12月8日(水曜)、12月15日(水曜)、12月22日(水曜)

3.実施医療機関

金沢大学附属病院

4.実験に用いた機器
  • 超音波診断装置(フィリップス社製「EPIQ 7」)
  • LiveU(映像送信機、受信機)
  • ドコモの通信回線(4G(LTE)回線)
  • 術中コミュニケーション用TV会議システム
5.役割
金沢大学附属病院
  • 実験内容の検討・関係部署との調整
  • 被験者への説明
  • 事前検証,実証方法の調整
ドコモ
  • 映像伝送機器(LiveU)の提供
  • 通信回線(LTE)の提供
  • WEB会議用機器の提供

■実証実験に関する医師の所感

 心エコー図検査は、検査目的に沿って適切な記録が行われる必要があるため、記録時にリアルタイムで指導することが重要となります。しかし、心エコー図検査に関する専門医が極めて少ない地域においては、非専門医や他のメディカルスタッフに対する診療支援や教育的活動が充分に行えていません。
 また2020年初めから本邦で新型コロナウイルス感染拡大が続いており、患者と近距離で接する心エコー図検査、特にエアロゾル発生リスクの高いTEEにおける診療活動や教育的活動が制限されています。本実証実験を通じて、遠隔医療による医師-医師間の支援活動が拡大し、専門医不足の課題解決にも貢献することが期待されます。

■実証実験に期待されること

 本実証実験は、心エコー図の専門医が不足している地方において、高画質画像伝送システムによる遠隔医療の可能性を検証するものです。また、循環器疾患の中でも超高齢社会においてその有病率が増加している大動脈弁狭窄症を対象としており、今後ますますこのような遠隔診療に対するニーズは高まると想定されています。さらに、モバイルを活用した映像伝送機であれば、機材の設置工事が不要であり、医療機関への導入負担を軽減できます。

■今後の展望

 今回は4G-LTE回線を用いたリアルタイム画像の伝送実証実験ですが、将来的には現在エリアが拡大している5Gを用いた遠隔医療画像伝送システムの開発等にも繋がる取り組みと考えています。

■共同研究者

・金沢大学附属病院 検査部

  • 森 三佳(助教)
  • 大平 美穂(医員)
  • 上谷 珠美(医員)

・金沢大学附属病院 循環器内科

  • 高村 雅之(教授)
  • 坂田 憲治(講師)
  • 吉田 昌平(助教)

・金沢大学附属病院 麻酔科蘇生科

谷口 巧(教授)

・金沢大学附属病院 経営企画部

長瀬 啓介(教授)

・金沢大学 融合研究域融合科学系

米田 隆(教授)

・金沢大学附属病院 先端医療開発センター

野村 章洋(特任准教授)

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