5Gは、わたしたちが思っている以上に
社会を変える
──工学者・玉城絵美が語る、ドコモ5Gが可能にすること(前編)

INDEX目次

  1. 5Gで始まる真の“リモートワーク”
  2. 5Gで変わる“仕事”、変わる“オフィス”

「急にリモートワークになったけれど、全然仕事がはかどらない…!」。いま、慣れないリモートワークに戸惑いを隠せない人も多いだろう。しかしまもなく実装される5Gは、自宅にいながら、あたかもオフィスにいるような感覚で仕事をすることを可能にしてくれそうだ。NTTドコモの5Gとの連携を発表し、実装実験に取り組む工学者の玉城絵美に、5Gで変化する社会について訊いた。

5Gの国際標準化を進める米国団体「3GPP」は、VR、遠隔医療、ドローン制御、自動走行など74件のユースケースを挙げた。5Gが“あたり前”になると、都市はどう変化していくのだろうか。

5Gは、4Gの次の世代となる第5世代移動通信システムだ。10Gbpsを超える通信速度、4Gの約1000倍にもおよぶ大容量化を目標とし、ドコモでは2020年のサーヴィス開始を目指し研究開発に取り組んでいる。

5Gで何ができるのか──。数々の研究開発のなかで、工学者の玉城絵美が立ち上げたH2Lは、BodySharing®研究プロダクトである、VRなどの仮想空間を体験できる「First VR」において、NTTドコモの5Gとの連携を発表した。玉城は主に観光VRに関する実証実験に参加している。

「わたしが取り組む観光体験はもちろん、教育や仕事をはじめ、さまざまな分野において大きな影響を与えると思います。リアルタイムで視覚情報を届けられるのは大きな貢献だと思います」

実際に、5Gはわたしたちの生活にどのような変化がもたらすのか。5G実証実験の真っただなかにいる玉城に訊いた。

遠隔会議では現状のテレビ会議よりリッチに、複合現実(MR)空間上でその場にいるかのような会議が可能になる。Magic Leapのウェアラブルデヴァイスは、ライトフィールド光工学(フォトニクス)を活用し、デジタル光を異なる深度で生成し、それが自然光とシームレスに混じることで本物のような“デジタル物質”をつくりだすことができる。これを現実世界と共存させると、遠隔地にいながら、自分をそこに投影し、あたかもそこにいるかのような会議が実現する。

5Gで始まる真の“リモートワーク”

「言語情報は7%、聴覚情報は38%、視覚情報は55%」
これは何の数字かと言うと、コミュニケーションにおいて、人に影響を与える情報の割合を示したものだ。1971年にアメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」という。日常会話で使う表情や声のトーンという非言語情報でのコミュニケーションは、93パーセントの情報をわたしたちに与えているということだ。

いま、まさに「リモートワーク」が注目されているが、これまでもリモートワークを推奨する流れはあり、文字を入力するだけのチャットを使用することが多かった。チャットでは文字だけのコミュニケーションになり、つまり言語情報の7パーセントだけで働いていたことになる。玉城は「文字だけで仕事をするのは無理なこと」という。「第4世代で4Gになって音声での遅延が少なくなったことから、Skypeなどのテレビ会議が使えるようになりましたが、それでも聴覚が伝えられる情報は38パーセントまででした」

例えばフルタイムの仕事をリモートワークにして、海外で日本の仕事をすることは現実ではかなり難しい。なぜ実現できないかというと、レイテンシー(遅延)が発生するからだ。

通信が大容量で安定しないと臨場感や没入感は得られない。現在でも動画でミーティングはできるが、どうしても“ぎこちなさ”を感じてしまう。これは通信に遅延が発生しているからだ。遅延が大きいと人間は違和感を感じるようになる。玉城はリモートワークの可能性について次のように言う。

「視覚情報はインタラクションで、握手などの物理的な作用の情報も含まれています。コミュニケーションにおいて、視覚情報の55パーセントに遅延が発生し、解像度も低いとなると、リモートワークは難しい。それが5Gになって遅延がほとんど発生しなければ、より現実に近いコミュニケーションができて、常用的なリモートワークも期待できます」

H2LのBodySharing技術とロボットアームを連携させた“BodySharing Robotics”。人とロボットが双方で物品運搬の協調作業をしたり、遠隔地の人と人とが貴重な体験を身体的にも共有することが可能になる。

5Gで変わる“仕事”、変わる“オフィス”

さらに5Gはオフィスや会議室の様子を一変させるかもしれない。

例えば、DOCOMO Open House 2020で発表されたH2Lと「ポータル」のプロジェクトは、H2LのBodySharing®技術と、5GやAR、VRといった技術を活用しながら、室内に身体の動作を伝達するVRデヴァイスや生体認証センサー、専用のPC、スキャニング、360°曲面ディスプレイを組み込むことで、これまでのオフィスとほとんど変わらない環境を家の敷地内に再現するというものだ。

BodySharing®技術を活用することで、身体動作による遠隔操作や、遠隔からの身体へのフィードバックを自らの身体に与えることができる。これが可能になると、将来的には遠隔地にいるロボットをリアルタイムの“自分”の動きに合わせて動かすことができたり、美容師、医師などの直接身体同士が触れ合う専門職でも遠隔業務を遂行したりできる。

「First VRをつけることで、手の動きをリモートに伝えることができます。遠隔地のオフィスにいるロボットが自分の動きに合わせてピッキングしたり棚卸しをしたりします。遠隔にいながら、物理的に遅延なく操作できるです」

「FirstVR」は、世界初のアクティヴセンシング技術を搭載。腕にFirstVRのコントローラを巻くと、14チャンネルの光学式筋変位センサー群が前腕周囲の筋肉の動き(筋変位)を検出。この筋肉の動きをAIシステムに短期学習させることでセットアップ時間を大幅に短縮しながらユーザの手の動きを検出することから、VR/AR初心者でも気軽に使用できる。スマートフォン(iOS, Android対応)があればすぐに最新技術のVR/AR体験をできるのが魅力だ。

現段階ではアームのみだが、足となるモーターをつければ移動も可能になる。これによりオフィスの様子もガラリと変化するはずだ。さらに視覚情報の分野でも、3Dホログラムなどの研究が進んでおり、会議にロボットやホログラムで参加したりと、自宅にいながらできることはますます増えていく。

一方で、玉城は5Gによって変化する働き方について次のように指摘をする。

「今後、リモートワークが可能になったところで“文化”が急に変化するわけではありません。ユーザーが変化をどう受け入れていくのか。社会的受容の面で障壁があると感じています」

玉城が指摘するように、日本ではデジタルビジネスの文化がすでに出来上がっている。テレビ会議の作法、メールの送り方……。これらの文化に、5Gがもたらす新しい文化をどう受け入れていくのか。玉城は「デジタルビジネス後進国のほうが導入は楽です。日本は導入事例を増やしていくといった地道な努力が必要」だと話した。

玉城絵美|EMI TAMAKI
H2L創業者。博士、JSTさきがけ研究員、早稲田大学准教授。2012年、東京大学大学院で同じ暦本純一研究室に所属し、ヒューマンコンピューターインタラクションを研究していた岩崎健一郎とともに、「H2L」を起業。身体そのものを「情報提示デヴァイス」にする「PossessedHand(ポゼスト・ハンド)」は11年『TIME』誌の「The 50 Best Inventions」に選出。17年、外務省WINDS(女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ)大使に任命。新たなBodySharing®研究プロダクトである「FirstVR」は、NTTドコモの5Gとの連携を2019年に発表した。

TEXT BY RIE NOGUCHI
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
ILLUSTRATIONS BY TOKUHIRO KANOH
PRODUCED BY WIRED JAPAN