新型コロナウイルス感染防止のため、間隔をあけて用意された5Gマルチアングル体験席

Text by 二宮寿朗 Toshio Ninomiya
Photograph by KASHIMA ANTLERS

「“鹿島っぽさ”を大切に、サポーター目線のコンテンツを」 5Gマルチアングル観戦体験で見えたこと

INDEX目次

  1. ライト層のファン目線でかなり喜ばれるのでは
  2. アングルを変えることでプレーの質を理解する
  3. リアルタイムの情報で「流れ」がわかる
  4. 「主役」のスタジアム観戦を邪魔しない

5G(ファイブジー)。

その言葉の響きだけで、何だかときめいてしまう。

高速大容量の第5世代移動通信システムを、鹿島アントラーズがクラブのオフィシャルパートナーであるNTTドコモの協力を得て採用するというのだ。

「ドコモ5Gマッチ」として開催された9月27日のホーム、大分トリニータ戦。筆者もメインスタンド側に用意された特別席での体験会に参加してきた。使用時間は限られていたものの、十分に堪能できた。

説明を受けた後に2画面ある5Gのスマートフォンを手渡された。

©KASHIMA ANTLERS

試合前は試合のみどころやチーム情報、選手情報などがあって「予習」ができるようになっている。この日は三竿健斗の明治安田生命J1リーグ通算100試合を記念して花束贈呈のセレモニーが行われ、対戦相手としてピッチに立つ5つ年上の兄・雄斗も写真撮影に加わった。

ライト層のファン目線でかなり喜ばれるのでは

2画面の下部分には両チームのフォーメーション図と選手の名前、写真が表示される。試しに「三竿雄斗」をタップしてみるとプレーエリアや六角形のチャート(シュート、チャンスメイク、パス、走行距離、ディフェンス、トップスピード)などが出てくる。

ライト層のファン目線に立てば応援するチームの情報は知っていても対戦相手はよく知らないということもあるはず。かなり喜ばれるサービスではないかと感じた。ベンチメンバーの情報まで網羅されており、筆者も今季出場数の少ない選手の情報をチェックしてみた。

試合前は上画面で試合の見どころ紹介、下画面ではチームや選手の情報が確認できるようになっている ©J.LEAGUE

さて試合がはじまると2画面の上部分がピッチ上の映像になり、マルチアングルで楽しめるようになる。基本の戦略カメラ、ゴール裏からピッチを縦に見るホーム/アウェイカメラ、プレーを寄りで見る寄りカメラ、そして中継映像の4アングルを選べる。

驚いたのはピッチ上と映像がほぼ同時だということ。遅延を感じないレベルなので基本的にはピッチ上のプレーをスタンドから見つつ、1対1の攻防など双眼鏡を使っていたところで寄りカメラにしてみる。

アングルを変えることでプレーの質を理解する

こういう使い方もある。

前半6分、大分のプレー。右ウイングバックの小出悠太がボールを持ち、同サイドの裏に出そうとしていたのでアングルをゴール裏からの視点に切り替えてみた。パスに合わせてシャドーの田中達也が、相手のセンターバックとサイドバックの間を抜けてボールを受け取ってクロスを送った場面。ゴールを縦軸に見ることで相手の前に入ろうとする田中のランの質の高さが理解できる。ダイアゴナル(対角線)に走るランなどは、このアングルだともっとわかりやすくなるだろう。

キックオフ後は、上画面で4つのアングルを選びながら観戦できる。画像は記事中で言及した場面とは別シーンの、ゴール裏カメラから見た試合の様子 ©J.LEAGUE

また、同9分の鹿島のプレー。町田浩樹がボールを受けに下がってきた和泉竜司にパスを出し、そこからワンタッチで三竿へ。これまたワンタッチで左サイドの裏を狙っていた永戸勝也へ。このシーンもゴール裏カメラだと、左サイドを崩そうとする鹿島の狙いが見えてくる。アングルを変えることで気づかされる点も少なくない。

リアルタイムの情報で「流れ」がわかる

画面の下部分には試合情報、選手情報のほかにリアルタイムスタッツが入る。

クリア、シュートなど場面が表示され、リプレーを見ることができる。上記の鹿島のプレーは最後、名古新太郎のシュートで終わった。ボタンをタップすると戦略カメラのリプレーが表示され、今度は別アングルからプレーを確認できた。リプレーが見られるようになるまで、そのプレーから1分も掛からないのも有難い。

「J STATS」によるデータが随時更新されていき、シュート数やパス成功率などのチームスタッツやボール支配率、走行距離が表示される。

開始10分過ぎまでは鹿島がボールを支配してパス成功率も高かったが、中盤に差し掛かると大分の走行距離が伸びていき、パスの成功率も上がっていく。このように今、「流れ」がどちらにあるのかも理解できる。

試合中、上画面ではリプレーの再生も可能。下画面ではチームスタッツが随時更新されていく ©J.LEAGUE

一連の機能も同時進行だからこそ堪能できる。ピッチで起こっている事象と映像やデータにタイムラグが生じてしまえば、リアルタイムを優先することになってしまう。「同時」ゆえに目の前にある試合も5Gから得る情報も両方手放せない感があった。

「主役」のスタジアム観戦を邪魔しない

体験を終えて最も感じたのは、あくまで「主役」であるスタジアム観戦を邪魔していないこと。企画に携わったNTTドコモの増原美帆さんはこう説明してくれた。

「スタジアムで観戦するファン、サポーターのみなさんにとって一番のコンテンツは、目の前にあるライブで行われている試合。観戦するうえで何があれば助かるんだろうという目線で、進めてきました。コア層にもライト層にも面白さを伝えるものでなければなりません。ゴールに至る何プレー前が良かったとか、この選手が頑張って走っていたとか、人によって『凄い!』と思うポイントって違うじゃないですか。マルチインフォメーションをつくって、みなさんのいろいろな興味に対してカバーできることを意識しました」

もう1つ感じたのは、競技重視の鹿島っぽく仕上がっていること。エンターテインメントを意識して、ポップ調なプログラムにすることだって可能なはず。増原さんによれば、鹿島側とも時間をかけて協議したうえで提供する中身を決めていったという。

「アントラーズさんは『すべては勝利のため』という言葉を、クラブ全体で掲げています。そのコンセプトに基づき、観戦するファン、サポーターのみなさんの熱量を上げられるツールにしなければなりません。もし違うコンセプトであれば、カメラアングルやインフォメーションなど中身も変わってくると思います」

NTTドコモはJリーグのトップパートナーでもある。今後は5Gの活用が多くのクラブで広がっていくに違いない。

リアルタイムで実現する5Gの圧倒的な観戦サポート力。

サッカー観戦新時代の扉は今、開かれた。

NumberWeb(10月公開)より転載