人口減少や超高齢化社会、訪日外国人の急増に直面する日本において、交通空白地、観光地における渋滞などが深刻な問題となっている。こうした交通課題の解決をめざし、新たなモビリティ社会の実現に向けた各社の取組みが加速している。

そのうちの一つが、ドコモが提供する「AI運行バス」だ。自動車業界だけでなく、ITや物流などさまざまな業界の企業が次世代型の交通サービス市場に参入するなか、ドコモは通信事業者としてどのように日本の交通課題の解決に貢献していくのだろうか。

 

観光客にとってちょうどよい交通手段を

AI運行バスは、乗客からの予約に応じて人工知能(AI)がリアルタイムに配車とルートを最適化して走行する乗合型の交通サービスだ。2018年度中の本格展開に向けて、兵庫県神戸市の住宅街や福島県会津若松市の観光エリアなど、さまざまな地域や利用シーンで実証実験が行われてきた。2018年10月5日より開始となった神奈川県横浜市みなとみらい地区での実証実験では、主に観光客に向けてAI運行バスのシステムを更に進化させたプラットフォームを提供することにより、移動の利便性向上と地域経済の活性化に貢献すべく、チャレンジが進められている。

みなとみらい地区は日本有数の観光地であり、観光客の数が非常に多い。横浜市としても、国内外からの観光客が魅力あふれる観光施設や店舗などを多く訪れるよう、回遊性の更なる向上を課題の一つとして捉えていた。このチャレンジがこうした課題の解決につながるか、そして、継続的に提供できるサービスとして構築できるかどうかといった検証を行うことが、今回の実証実験の主な目的となる。

 

タクシーとバスの”いいとこ取り”をしたモビリティ

AI運行バスを利用するためには、運行区域内の駅や商業施設で配布されているリーフレットが必要となる。そこに記載されたQRコードをスマートフォンの専用アプリもしくは乗車ポイントにある専用端末に登録し、画面上で目的地や乗車地点、乗車人数、希望乗車時刻などを設定することで、配車の手配が行われる。

AI運行バスの乗車予約をするアプリ画面

こうして乗客から予約が入ると、複数台走行しているAI運行バスのなかから最適な車両がAIによって選択され、該当車両内のタブレットへ配車指示と最適ルートが送られる。AI運行バスのドライバーは、この指示に従って乗客が待つ乗車ポイントまで車両を移動させるという流れだ。車両到着後、乗客はQRコードをドライバーへ提示して乗車し、目的地へと向かう。ただし、走行途中で他の乗客の予約が入った場合は、走行ルートがAIによって再計算されることとなる。

AI運行バスに取り付けられたタブレット

今回のみなとみらい地区での実証実験では、10台以上の乗客定員4~6人のタクシー車両が同地区内31カ所の乗降ポイントを経由するように運行している。利用料金は無料。休日には700人を超える利用者数があるなど、ユーザーからの評価は上々だという。

AI運行バスは、乗り合う乗客次第では、目的地に対して多少回り道をしてしまうケースがあることから、走行ルートや所要時間といった面ではタクシーというよりはバスを代替するものとして捉えたほうがよいだろう。一方で、自分の乗りたい場所・時間に配車するという感覚はタクシーに近い。AI運行バスはいわば、タクシーとバスの”いいとこ取り”をしたサービスといえる。

また、近隣店舗や施設の情報をアプリ上の検索結果に掲載することで、運行区域内における観光客の回遊性向上を狙っていることも、AI運行バスの特徴の一つにあげられる。自治体としては地域経済の活性化や街の魅力向上の取組みにつなげることができ、店舗や施設としては来客数の増加が見込める。AI運行バスによって、その地域の経済循環を活性化できる可能性があるということだ。

 

さまざまな可能性を秘めたAI運行バス

横浜赤レンガ倉庫の前に駐車するAI運行バスの車両

今回の実証実験では、協業する未来シェアのAI技術を活用して顕在化した乗車要求に対する車両供給を最適化しているが、今後はドコモのリアルタイム移動需要予測技術との連携を予定している。この予測技術は「近未来人数予測®」という統計情報を活用している。「近未来人数予測」は、ドコモのモバイルネットワークの仕組みを利用し、個人のプライバシーを保護しながら、性別や年齢層などの属性も含めた一定エリアごとの現在および近未来の人数分布を把握することができるものだ。これによって得られた人数分布データに加え、車両運行データや気象データ、周辺施設データなどをAIに学習させ、人々の未来の移動需要をリアルタイムに予測することで、配車と走行ルートのさらなる最適化を進めていこうとしている。

そして「近未来人数予測®」は、AI運行バスの提携店舗や施設側が利用する情報発信アプリにも実装されている。これにより、近隣エリアにおける現在そして1時間先までの人数分布を把握でき、提携店舗は、そのエリアにいる人、もしくはこれから来る人に応じたクーポン発行やキャンペーン実施、情報発信が可能となり、AI運行バスという移動手段とのセット提供で更なる集客効果向上へとつなげていくことができる。

数々の実証実験を通して、AI運行バスはただの移動手段ではなく、サービスへと進化しつつある。これがドコモの考えるMaaS(Mobility as a Service)だ。複数の移動手段を統合・連携するだけではなく、ラストワンマイル交通の充実と移動の先にある目的地・サービスとの連携が交通課題解決と地域経済活性化のキーとなると考えている。今後は地域の店舗や、鉄道などの一次交通との連携をより深めていくことで、ユーザーや自治体、近隣店舗、交通事業者、すべてのステークホルダーにとってよりよいモビリティとなるようなサービス展開を期待したい。

Photos : Tadayuki Uemura
Text:Hitomi Suto