ラグビー日本代表戦のライブビューイングが見せた未来のスポーツ観戦の姿

2019年、2020年に向けて、スポーツへの注目は大きく高まっていくと予想される。日本におけるスポーツの市場規模はまだまだ小さく、観戦体験をアップデートし、ファンを増やしていかなければならない。

観戦体験のアップデートのために、テクノロジーには何ができるのだろうか。NTTドコモは、ラグビーワールドカップ 2019™に合わせた第5世代移動通信システム「5G」のプレサービス開始を見据えて、5G等のICTを活用した新しい観戦体験の提供・実証に挑戦している。

家族連れで楽しめるライブビューイング空間

2018年11月3日、肌寒さが増してきた週末の午後、リポビタンDチャレンジカップ2018 日本代表とニュージーランド代表戦が味の素スタジアムで開催された。会場には、4万3751人が詰めかけ、熱狂に包まれた。

同じ都内で会場からは離れた場所でも、ラグビー観戦に詰めかけるファンの姿があった。試合会場とは雰囲気が異なり、ほとんどは家族連れだ。子どもでもラグビー体験ができるプレイエリアや家族向けフォトスポット、飲食コーナーなどが揃い、子どもたちが楽しんでいる。

これはNTTドコモがJ SPORTSと共同で高田馬場ベルサールにて開催した、新感覚のライブビューイングイベント「家族で、遊ぼう!ラグビーパーク」(以下、「ラグビーパーク」)会場の光景だ。同会場では、ラグビーのルールを紹介するアニメーションが上映された他、試合前にはトークショーが催されていた。ライトなラグビーファンでも楽しめるように、子ども連れでも観戦ができるようにという配慮が施された空間だった。

「ラグビーパーク」会場では、ライトなファン層や家族で楽しめるための工夫だけではなく、臨場感ある観戦ができるよう技術が随所に活用されていた。

遠隔地で臨場感ある観戦体験を可能に

今回は5Gを利用し、会場の巨大なスクリーンに投影する試合の映像と、味の素スタジアムのピッチ上の音、歓声などをリアルタイム-ロスレス音響符号化システムを用いて伝送。観客席の臨場感が伝わるように、7.1chのサラウンド音響体験が用意された。

巨大なスクリーンでラグビーのライブビューイングを楽しむ人々

さらに今回は視覚、聴覚に加え、触覚に関する挑戦も実施された。来場者に手渡されたのは、透明なラグビーボール状の「ふるえるボール」だ。試合中の手に汗握るプレーの瞬間、実際の試合のボールの動きに連動して、来場者の手元で振動する。内蔵されているLEDが光ることで会場での一体感の醸成にも一役買っていた。

視覚以外にも聴覚、触覚の感覚が刺激されることで臨場感は高まる。だが、臨場感があるだけでは試合は楽しめない。試合では今何が起きているのかをどれだけ把握できているかが観戦体験の良し悪しにつながる。特にラグビーのようにルールが複雑な競技であればなおさらだ。

1.スタッツデータのビジュアライズ、ルール解説

スタッツデータのビジュアライズ

今回のライブビューイングでは、ライトファンでも観戦を楽しめるようにするための工夫もこらされていた。試合中のプレーデータである「スタッツデータ」を活用し、メインスクリーンの両脇にあるスクリーンでビジュアライズ。また、試合の動きに合わせてリアルタイムでルールが解説動画も放映された。

さらにラグビーへの興味・理解を深めることを目的にラグビーに関するクイズを出題し、正解者にはその場で使用できる飲食のクーポンを進呈する取り組みも行った。

ドコモでは過去にラグビーの観戦体験を豊かにするために、アプリを通じてラグビーのルールを教えてくれるボットの提供が行われた。このように、ライトなファンにとっては飽きずに試合を見るために必要な配慮だ。

家族でライブビューイングを楽しむためには、子どもが空間を楽しむための試合以外のコンテンツも重要なポイントの1つとなる。

2.ARフォトブース、プレイエリア 

ARフォトブース

このARフォトブースでは、AR技術を使い、カメラの前に立つと、代表のユニフォームを着たような写真を撮影できる。 5Gを用いて認識した映像をクラウドにアップロードし、処理をして表示するという、技術的には難度の高いことに挑戦していた。技術を噛み砕いて子どもでも楽しめるようなアウトプットを作り出す。これも、観戦体験を新たなものにしていくための挑戦の一つだ。 この他にもタックルやラインリフトの体験や自分の声援がビジュアライズ化されるコンテンツなどプレイエリアは充実しており、多くの子どもたちで賑わっていた。

ドコモが描く2020以降のスポーツ観戦の未来

今回のライブビューイングでも、数多くのトライが見られた。技術を用いた観戦体験の進化は今、どのようなフェーズなのだろう。今回の挑戦について、ドコモのスポーツ&ライブビジネス推進室長 馬場浩史がその裏側を語った。

馬場「ラグビーワールドカップ 2019™が開催される2019年の5Gプレサービス、2020年の商用サービスに向けて、観戦体験を進化させるためにいろいろなトライアルを重ねています。今回は、5Gを使って臨場感を高めるために、映像のみならず、音や振動、光などで付加価値をつけられるかに挑戦しました」

新たな観戦体験を開発する背景には、諸外国と比べて日本のスポーツ市場の拡大余地があり、それを積極的に拡大していきたいという強い想いがある。スポーツをさらに盛り上げていくためには技術を用いて観戦体験を進化させ、新しいファンの方々にスポーツの新たな楽しみ方を提供していかなければならない。

そのため、今回のライブビューイングはいかに臨場感のある観戦体験を提供するかという挑戦に加えて、ラグビーのコアファンでない人にも楽しんでもらえるか、家族で楽しめるようなイベントにすることにも挑戦したという。

馬場「臨場感ある観戦を体感的に楽しんでもらうために、テクノロジーをどう噛み砕くのかを考えました。ふるえるボールの振動は、もともと視覚や聴覚に障害のある方向けの研究を活用したものです。試合を観戦していて、音声解説を聞いているだけでは試合の盛り上がりとズレが生じてしまいます。リアルタイムの振動であれば、試合のリズムが伝わるのではないか、という仮説の検証を行いました。

臨場感をいかに伝えるかという軸はぶれません。しかし、単に現地の様子を臨場感高く伝えるのみならず、遠隔会場ならではの盛り上がりや興奮の伝え方が発明できると面白いのではと考えています。遠隔地ならではの観戦体験を生み出すことが、ファン拡大のためには重要ですから」

5G無線基地局装置

これまでドコモは、スポーツの観戦体験を新たなものにするための挑戦を重ねてきた。スポーツのみならず、音楽ライブのライブビューイングにも挑戦してきた歴史がある。この先、様々な挑戦をまとめあげていくと、2020年以降のスポーツ観戦体験の輪郭が浮かび上がってくる。

馬場「来場者が参加するようなインタラクションのある表現には挑戦していきたいと思っています。2020年以降、みなさんが5Gの端末を持つことになります。そうすれば、双方向で遅延のない大容量のやりとりが可能になる。その時代を見越して、わたしたちは現段階で何ができるかを考えています。

フェンシングの観戦体験を拡張した際は、アングルを手元で切り替えられることで試合の様子がわかりやすくなりました。ラグビーも将来的には、選手のように試合で動いている対象にカメラがつけられて、5Gの多数端末接続という特性を活用して映像を伝送し、無数の視点を観戦側が切り替えながら楽しむことも可能になるかもしれません」

スポーツの観戦体験は、大きく現地、ライブビューイング、家と3つのシーンに分かれていくと馬場は予測する。2020年には、現地の体験を離れた場所で再現するだけではなく、その場面に応じた観戦体験を実現することも可能になるだろう。そのときには、これまでは試合を楽しむことができなかったライトなファン層も楽しめるようになっているはずだ。

Photos : Tadayuki Uemura
Text:Junya Mori