米国や韓国などでは、すでに商用利用が開始されている「5G(第5世代移動通信システム)」。日本では2019 年4月に通信事業者への周波数割当が完了し、ドコモは、2019年9月にプレサービス、2020年春頃に商用サービス開始を控えている。

5Gは、高速・大容量、低遅延、多数端末接続という3つの特徴を持っているが、読者の中には、ピンとこない人も多いだろう。5Gのこうした特徴は、ほかの先端テクノロジーとの掛け合わせで威力を発揮する。5Gの登場で私たちの生活はどう変わるのだろうか? 最先端の3つの取組みから、その未来を想像してみよう。

エンターテイメントもボーダーレスに!車いすで西暦2100年の東京を走り抜ける。

「車いすマラソン」をご存知だろうか。車いすを用いて陸上競技を行うパラスポーツの1つで、選手は腕力のみを使ってコースを走り抜く。「マラソン」という言葉の響きから想像するのとは異なり、かなりスピード感のある競技だ。42.195kmを走る車いすマラソンの世界記録は1時間20分14秒。すなわち、平均時速は31.7kmということになる。トップ選手では、最高速度が時速60kmに到達することもあるという。

何人もの選手が車いすでコースを颯爽と駆け抜けていく姿は圧巻で、非常にエキサイティングなスポーツだ。しかし、一般の人が体験できる場はほとんどなく、その難しさや楽しさはなかなか伝わりづらい。車いすマラソンをはじめとするパラスポーツの普及には、いかに一般の人たちに身近に感じてもらえるかが長年の課題だった。

この課題を解決する鍵は、車いすマラソンを”スポーツ”から”エンターテイメント”に拡張することにあった。ヘッドマウントディスプレイを装着して車体に乗り、車輪についたハンドリムを回すことで、ディスプレイに表示されたVR内の画面を進んでいく———「ワントゥーテン」が開発した車いす型VRレーサー「CYBER WHEEL」は、障がいの有無を問わず、誰もが車いすマラソンを楽しみながら体験できる。

2017年に発表されたCYBER WHEELは、現在ver.2までバージョンアップされており、発表時に比べて性能・機能とも大幅に向上した。ver.1では頭の動きから左右に曲がるタイミングを決めていたが、ver.2では左右の腕の動きを認識しているため、実際の車いすでの操作感により近いものになっている。車いすの操作に慣れていないと力加減が難しく、思うように曲がることができない。選手の動きをよりリアルに追体験できるようになったというわけだ。

CYBER WHEELで車イスレースを楽しむ女性

ver.2では「対戦したい」というユーザーの声を反映し、2100年の東京をイメージしたコースを2人で競いながら走れるようになった。1人で車いすマラソンを体験することは、従来の通信環境でも可能だが、実際の競技のように複数人数でより臨場感のあるレースを、離れた場所にいるユーザが行うには、高速・大容量、低遅延という特徴を持つ5Gが必要となる。腕の素早い動きを遅延なく反映させたVR映像を複数台のディスプレイに配信することが重要になるためだ。また、5Gであれば有線配線が不要となるため、イベント会場などの選択肢が広がる。これにより、一般の方にパラスポーツを体験頂く機会をより多く創出できる。

CYBER WHEELで描かれた2100年の東京をイメージしたコース

CYBER WHEELは、将来的にはゲームセンターのようなアミューズメント施設での展開も構想されており、さらに多人数でのレースを行えるように開発を進める予定だ。また、同技術をほかのスポーツへ応用することも考えられている。障がいの有無を問わず一緒に楽しめる”ボーダーレス”なエンターテイメントとしてパラスポーツが日常に溶け込む未来は、そう遠くはない。

自動運転の先にある未来では、現実と仮想が入り混じったドライブを楽しめる

自動運転の実用化をめざし、世界各国で様々な企業が技術開発にしのぎを削っている。だが、運転手を必要とせず、どんな道路でも自動運転で走行可能な状態になる完全自動運転時代を見据えた取組みも、実はすでに始まっている。

日産自動車はかつてより、車内での人と人とのコミュニケーションを復活させたいという構想を描いていた。複数人で乗車する機会が減少している昨今では、自動車はただの移動の手段となってしまっている。日産自動車は、テクノロジーを活用することで、自動車内の空間が家族や友人などとのコミュニケーションの場として機能していた頃の体験を取り戻そうとしている。

完全自動運転の実現は、この構想の追い風となる。物理的に運転作業から解放されれば、ドライバーはその空いた時間を娯楽や仕事などほかの活動に使うことができるためだ。そこで、日産自動車が提案したのが「Invisible-to-Visible(I2V)」というコンセプト。ARを活用し、リアルとバーチャルを融合させることで、完全自動運転時代の移動時間の楽しみ方を提供するというものだ。

日産自動車Invisible-to-Visibleイメージ

I2Vは、遠隔地にいる人が仮想3Dアバターとして車内に現れ、乗車している人にとっては同乗者がいるような、遠隔地にいる人にとっては自身も乗車しているような体験ができる。車内に搭載されたカメラやセンサーの情報を統合し、車内や車窓の様子を共有しながらの双方向コミュニケーションが可能になっている。

I2Vが実現すれば、仮想3Dアバターとして、離れた場所に住む友人や家族を乗車させたり、観光ガイドを呼び出して、より充実した観光体験を得られるだろう。また、自分の好きなアイドルやキャラクターなどとドライブを楽しむこともできる。移動しながら遠隔地の同僚と会議を進めることも可能になるかもしれない。

いずれにしても、3Dアバターとのコミュニケーションには高いリアルタイム性が必須だが、そこで活躍するのが5Gだ。移動する自動車と遠隔地をつなぎ、仮想3Dアバターに動きをつける情報や、車内に搭載されたカメラやセンサーの情報を届けるには、高速・大容量、低遅延といった5Gの特性が求められる。

自動運転車に乗ってARグラスを装着すれば、1人でいてもたちまち賑やかな空間に——I2Vが実用化されれば、日常生活からレジャー、ビジネスまで、幅広い領域での体験がアップデートされるに違いない。

日産自動車Invisible-to-Visibleを体験する男性と女性

街路灯が、あんしん・安全だけでなく、賑わいまでも提供する

5Gが活きる領域は、スポーツやモビリティだけではない。より大きな”都市インフラ”への活用も注目されている。NECは、街路灯に通信機能を搭載し、カメラやデジタルサイネージ、スピーカーなどのデバイスを複数装備させた「スマート街路灯」の開発を進める。防犯対策や災害時の情報配信などに役立つほか、街に関するさまざまなデータを効率的に収集するネットワークインフラとしても機能する。

NECスマート街路灯

街中に等間隔に設置されており、なおかつ複数のセンサーやデバイスを搭載できるという街路灯の特徴を利用することで、さまざまなユースケースが考えられる。たとえば、音を検知できるセンサーを搭載すれば、悲鳴などを認識して防犯につなげられるかもしれない。人の足音を拾って街路灯の周囲にいる人数を把握し、デジタルサイネージやスピーカーを活用すれば、データにもとづいた誘導案内を実施して、人の往来をコントロールすることで、街に賑わいをつくりだせる。災害時には街路灯同士を連携させてネットワークを形成し、浸水センサーや震度センサーを組み合わせれば、現場の情報収集を行ったり、避難経路を表示したりすることもできる。

さらに、スマート街路灯に5Gが加われば、大容量のコンテンツ配信やカメラによる顔認証の高精度化などが可能になるため、提供できるサービスにさらなる広がりが生まれる。たとえば顔認証でスマート街路灯の付近にいる人の属性を把握することで、マーケティング調査に役立てたり、その人に合った広告配信を行ったりもできるようになるだろう。顔認証の精度が上がれば、迷子検知にも役立てられる。

海外ではすでに、街路灯にセンサーを搭載し、交通情報やPM2.5などの情報を提供するといった取組みが進んでいる。身近にある街路灯が、私たちのあんしん・安全を守るだけでなく、街に活気までを創出してくれるようになる日は近い。

NECスマート街路灯

今回紹介した5Gのある未来像は一例に過ぎない。5Gとほかのテクノロジーが融合することで、未来の可能性は無限になるからだ。5G時代の本格的なスタートはもう来年に迫っている。私たちの暮らしがより便利になることは言うまでもない。それだけではなく、社会全体の常識や価値観までもが大きく変わっていく転換点となる可能性をも秘めている。期待に胸を膨らませ、その時を待ちたい。

Photos : Tadayuki Uemura
Text:Hitomi Suto