コラム:イノベーション創発への挑戦

「製品最高経営責任者(CEO)」を育てよう

「製品最高経営責任者(CEO)」を育てよう

昔、こんな逸話を聞いたことがある。初期の白熱電球は輸送中の振動によるフィラメントの断線が結構あったらしい。納品先の担当者はメーカーのA社とB社にこう苦情を言った。「おたくの電球、100個に1個の割合で切れてますよ。なんとかなりませんか」

A社の担当者はこう答えた。「輸送中の振動でも切れない白熱電球をつくります」。B社の担当者は「100個につき1個オマケしておきます」と応じた。

日本の科学技術力の低下はICT(情報通信技術)分野で顕著だ。ICTは様々な利害関係者を連携させなければならず、ここが日本の弱みとなっている。例えば音声認識製品で顧客から「おたくの音声認識、正答率95%です。なんとかなりませんか」と言われたとする。「もっと技術開発に予算と技術者を配分してほしい」と社内で言うなら先ほどのA社と同レベルだ。

ここでは「音声認識技術をC社とD社に安価でライセンスして共同出資会社をつくりましょう」と言ってみたい。視点を高く持ち、経営判断レベルの課題発見が重要となる。

「プロジェクトマネジャー」と「プロダクトマネジャー」の違いをご存じだろうか。前者は与えられた計画を実行するリーダーを意味する。後者はその製品の事業について責任を負う。いわば「製品最高経営責任者(CEO)」だ。

  • プロダクトマネジャーを育てるために

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    2011年から毎年、有志で静岡県の初島でICTの次世代のリーダー候補を集めた「初島会議」を開いている。17年は「デジタル変革」というテーマで行い、私はその変革のための教育に関するパネル討論を企画した。メンバーは私と石田亨・京都大学教授、スシ・スズキ・京都工芸繊維大学特任准教授、竹内郁雄・情報処理推進機構(IPA)未踏統括プロジェクトマネージャー、横田幸信・東京大学i.schoolディレクターの5人だ。

    5人とも、体系的知識の上に卓越した課題発見能力と実践スキルを併せ持つ人材を育てることが大事だという認識だった。問題はそのような人材をどのようにして育てるかの方法論だ。まだ明快な答えはない。だが、IPAの未踏プロジェクトの活動は参考になる。

    このプロジェクトは00年に始まった。これまで1500人以上の卒業生を輩出し、9カ月の訓練プログラムを社会人と学生に施している。特筆すべきなのは、卒業生の間で「化学反応」が起き、彼らの一定割合が起業することだ。起業した会社の時価総額を試算すると、上位5社の合計額は優に2000億円を超えた。クリエーターがプロダクトマネジャーになって事業をつくり出しているのだ。

    話を冒頭の逸話に戻そう。白熱電球1個のオマケを過小評価してはならない。製品に責任を持つプロダクトマネジャーだからこそできる判断だ。プロダクトマネジャーを育てよう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2017年12月13日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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