コラム:イノベーション創発への挑戦

電話を使わない世代

電話を使わない世代

携帯電話の今から30年前の1992年の普及率は3%にみたなかったが、10年後の2002年には90%を超えた。駅近くの公園や街頭ビジョン前で友人と待ち合わせする必要がなくなり、知り合いに直接電話することが日常になった。そして2022年の今、この5年間、仕事で電話を使うことが急激に減っている。

米国では、1980年以降に生まれたミレニアル世代、95年から2010年の間に生まれたZ世代では、4人に3人が電話を「ウザイ」と感じているとの統計がある。彼らの大多数が電話を使わず、以下の行動パターンが見受けられる。

  1. メールで済むことはメールで済ませる。メールを優先して使う。近年はこのメールが他のデジタル手段に置き換わろうとしている。
  2. 電話をかける行為は相手と自分の時間を奪う。デジタル手段を使えば2行の文章で済む連絡に15分の電話時間が消費される。多くの人がメールとLINEやFacebookなどのSNS, そしてZoom, Teams, Slackなどの会話ツールを使っている。
  3. 電話しなければならないときは事前に「電話してよいか」とデジタル手段で確認する。

こちらでも1965年以降に生まれたX世代を含めて知り合い30人(XYZ世代でほぼ3等分)に以下のどれであるかたずねてみた。

  1. 電話は使わない。メール、SNS、会話ツールというデジタルで完結。
  2. 通信はデジタルが多いが、家族、親友、デジタルを使わない顧客とは電話を利用。
  3. 直に電話して何が悪いのか。電話の本人確認は信頼できる。電話で話すことが大事。

回答比率は、ほぼ1:1:1だったが、業界・地域による差が大きい。金融機関、役所、不動産など法規制があるところで電話利用が顕著で、相手が電話しか使わないのでそれに付き合うしかないという環境制約も多かった。

デジタルだと相手との距離が縮まらないという意見もあった。メールは答えが決まっておらず、複数の人間がそれについて意見を述べる必要がある場合の通信に向かないとされてきた。しかし、それらの課題はデジタル手段の発展で解消されようとしている。

5年前に日本に上陸したスラックというサービスがある。時間・場所を選ばない非同期会話(短い諸連絡から提案書にいたる文書交換)と時間だけを選んで2人以上のグループが集まって行う同期会話(デジタルの会議)を同時に提供している。コーヒー休憩の雑談のように気楽に複数の社員が集う弱い同期会話の機能もある。

これからは非同期、弱同期、同期の複数の会話モードがシームレスにつながり、AIにより他の自動化サービスと連携することになる。スラックを超えるサービスも現れるだろう。

無音世代は会話が嫌いなのではない。人とのつながりを大事にしながら、効率の良い仕事スタイルを始めているだけだ。若者は電話を使わない。その対応からデジタルを始めよう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2022年2月25日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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