コラム:イノベーション創発への挑戦

web3の原点とは

web3の原点とは

web3という言葉がにぎやかだ。多くの人は仮想通貨に関連した新しいインターネットサービスを連想するだろう。それはトークンエコノミーと言われるものでドル、円という法定通貨ではなく、トークンがサービスへの支払手段として利用され、独自の経済圏を形成すると言うものだ。

ここでトークンとはビットコインを代表とする仮想通貨と理解してよい。デジタルで提供されるサービスに応じて、数々の仮想通貨が誕生している。そのトークンエコノミーで起きている現象はゲームをすれば仮想通貨が手に入るとか、仮想通貨でデジタルグッズが購入できるとか、コミュニティー内の支払いを簡単にできるとかなど、百花繚乱(りょうらん)だ。

web3をトークンエコノミーから見えている現象から理解しようとすると様々な解釈があり、定義することは難しい。

ビットコインにならぶ有名な仮想通貨にイーサリアムがある。実は、web3のトレンドはイーサリウムが作り出している。この原点をその仮想通貨プロジェクトの最高技術責任者であったギャビン・ウッド氏が2014年4月17日に投稿したブログで説明したい。 スノーデン事件(2013年に明らかになった事件で、IT大手企業も加担したデジタル監視社会の負の側面を曝け出した事件として知られている。)はインターネット上の組織が提供するサービスに個人データを預けることは根本的に壊れたモデルであることを示した。

今までインターネットを支えてきた技術を再設計したものが必要である。それがWeb3、あるいは「ポスト・スノーデン」ウェブと呼ぶものだ。ユーザーにとって「公開されると想定される情報は公開される。合意されたと思われる情報は合意記録簿に記録する。非公開と想定される情報は秘密にし、決して公開しない」というものだ。技術として以下が特徴となる。

1.サイバー攻撃に堅固な自律分散化されたシステム。

2.中央サーバーを必要としないピアツーピア(P2P)と呼ばれるユーザー端末間のみの秘密通信方式。

3.イーサリアムというコンセンサスエンジン(合意記録実行機)の利用。

4. (原文とは違う表現だが)スマートコントラクトと呼ばれるアプリケーション開発環境の提供。

以上をそろえたものがWeb3であり、それはプライバシーが守られた安全な「ソーシャルオペレーティングシステム」である。

彼の構想を理解するためには計算機科学の大学院を修了しているレベルの知識が必要となり、ばっさり要約した。伝えたいのは、web3の原点は地球上の情報処理を分散したコンピュータを統合制御するシステムで実行するという壮大な計画にある。彼が作ろうとしているのは世界中で任意の開発者、プログラマーが匿名で参加できる「単一状態を保持した、分散ワールドコンピュータ」だ。

仮想通貨の根っこにこの構想がある。このワールドコンピュータが動作を始めてまだ数年だ。匿名であることがプライバシー保護になるのか、秘密であることが信頼になるのかの議論はある一方で、もっと技術を直視しよう。これらのワールドコンピュータを実社会とどう調和させるのか、社会システム設計の視点から深掘りしたい。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2022年9月7日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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