コラム:イノベーション創発への挑戦

生成AIの破壊力

生成AIの破壊力

ChatGPT(チャットGPT)が話題になっている。筆者は2016年米グーグルが実用化したニューラル機械翻訳が登場した時のザワザワとした気持ちを再び感じている。また何かが起きそうなのだ。その時は、日英などの異なる言語の文章をコンピュータで自動翻訳する技術が、普通の日本人の英作文能力を超えた年だった。6年後の今、起きていることは、「コンピュータが人の書いたと見間違える文章が書けるようになった。」ということだ。

2021年に、筆者が関係したLINE社でAI産業の進むべき方向を示した。その中の一つが「生成AI」だった。それから2年の間に、この生成AIが実用化のレベルを超えることになった。人間とコンピュータとの対話から、人間の著作と区別が難しい文章、映像、音声が自動生成されるようになってしまった。

一つ例を示そう。私がコンピュータに以下の文章を入力する。「200文字の報道発表文章を書いてください。キーワードはタイムマシン、未来旅行、競馬の予想、宝くじが当たる」。コンピュータが返してきた文章は以下だった。

「タイムマシン開発社は未来旅行による競馬の予想技術を開発しました。これにより、将来的に競馬のレース結果を知ることができ、宝くじにも当たる可能性があります。これは、タイムトラベル技術の進化により、科学的に可能になったものです。今後も、さらに多くの分野にタイムトラベル技術を活用し、人々の生活を豊かにすることを目指します」。私の書きたい空想記事をコンピュータが自動生成してくれた。

仕組みはこうだ。まず人間がインターネット上にある有用な文章を大量にうまく選んでコンピュータに入れ、文字の順序を学習させる。つまり文章を自動生成するプログラムを作る。このプログラムをさらに人間との会話に適した文章を生成するように訓練する。そうすると、プログラムが人間の論理的思考を模倣するようになる。

誤解ないように述べておくと、今の生成AIは人間のレベルにはない。過去に記録された文章を学習して確率的に起きる文言の連鎖を表層的に学習しているにすぎない。だから明日の天気予報を尋ねても答えられない。突発事故に対応して出動できる消防士にもなれない。それでもだ。この生成AIで自動化できることは非常に多い。

プログラミング、仕様書や報告書の作成、翻訳、音声書き起こしが劇的に効率化されることになる。社内文書には各社の内規や独特な言い回しがあるが、それをコンピュータが学習してしまえば、多くの定型的な文書作成は簡単なコンピュータへの指示で自動化される。

2023年現在から今後5年間で人間に求められることは何か。生成AIを道具として使いこなす指示力が重要となる。生成AIの著作を採用するかしないかの判断力も求められる。突き詰めれば、生成AIが作り出した著作物の品質を判定する審美眼をもつことが必要となる。

だから教育現場も変わる。宿題を学生本人がやったかどうかの真贋判定するよりも、当人のコンピュータ以上の文章が書ける能力を問うようになる。生成AIの破壊力により人間にしか提供できない価値が先鋭化し、企業事務と教育のあり方が変わるのだ。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2023年3月22日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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