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Super 3Gの技術動向 その2 Super 3Gの技術検討〜2.物理レイヤ技術コンセプト提案

2005年6月の3GPP TSG RAN WG1の会合において、以下に示す周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)注意1方式、および時分割複信(TDD:Time Division Duplex)注意2方式によるそれぞれ3つのコンセプトが提案された(表1)。

表1 提案された無線アクセス方式
デュープレックス方式 上りリンク 下りリンク
 FDD SC-FDMA OFDMA
OFDMA OFDMA
MC-WCDMA MC-WCDMA
 TDD MC-TD-SCDMA MC-TD-SCDMA
OFDMA OFDMA
SC-FDMA OFDMA

MC-TD-SCDMA(MultiCarrier Time Division Synchronous Code Division Multiple Access):中国で採用が予定されている第3世代移動通信であるTD-SCDMAを高速化するためにマルチキャリア化したもの。

2005年11月のRAN WG1において、FDD(paired spectrum)およびTDD(unpaired spectrum)において、高い共通性(high commonality)が非常に重要であり、同じ無線アクセスにすべきという提案が多数の企業により合意された。このFDD/TDDにおける共通の無線アクセス方式として、周波数利用効率が高いとされる直交周波数分割多元接続(OFDMA : Orthogonal Frequency Division Multiple Access)が、基地局から移動端末への下りリンクに、SCFDMA(Single-Carrier Frequency Division Multiple Access)が移動端末から基地局への上りリンクに採用されることが、2005年12月のプレナリ会合で承認された。

以下、この無線アクセス方式の特徴について解説する。

2.1 下りリンクOFDMA

直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)は、高速データレートの広帯域信号を多数の低速データレートのマルチキャリア信号を用いて並列伝送することにより、マルチパス干渉(遅延波からの干渉)に対して耐性の高い高品質信号伝送が実現できる。さらに、OFDMは狭帯域幅のサブキャリア信号を用いるために、サブキャリア数を変更することにより1.25〜20MHzまで広範囲な信号帯域幅のスペクトルに柔軟に対応できる。一般的にOFDM では、各OFDM シンボル注意3の先頭にCyclic Prefixと呼ばれるガード区間を設けることにより、前シンボルの遅延波が次のOFDMシンボルに及ぼすシンボル干渉およびサブキャリア間の直交性の崩れに起因するサブキャリア間干渉を除去できる。E-UTRA(Evolved UTRA)では、このCyclic Prefixを用いるOFDMベースの無線アクセスをベースラインにしている。以下、OFDMベースの無線アクセスの特徴について述べる。

(1)周波数ダイバーシチを用いる信号送信法

広帯域伝送では、前述のマルチパスにより周波数領域の受信レベルが変動する周波数選択性フェージング注意4の影響をいかに有効に利用するかが鍵となる。OFDMベースの無線アクセスにおける信号送信法としてはLocalized FDMA(図1(a))とDistributed FDMA(図1(b))の2通りの方法が用いられる。Localized FDMAとは、連続する複数のサブキャリア(無線リソースブロック)をまとめて特定のユーザに割り当てる方式であり、Distributed FDMAは全帯域を用いて複数のユーザに離散的に割り当てる方式である。

図1 Localized およびDistributed FDMA 信号送信法

1Localized FDMA
データチャネルには、周波数領域の伝搬路の変動を利用したパケットスケジューリングが適用される。すなわち、周波数領域において、受信信号レベルの高いユーザを選択する。移動端末は1無線リソースブロックを送信する周波数単位ごとにチャネル品質(CQI:Channel Quality Indicator)を測定し、測定したCQI情報を上りリンクの制御チャネルにより基地局に報告する。基地局は、複数ユーザから通知されたCQI情報を基に、時間フレームの最小単位であるサブフレームにおける無線リソースブロックをスケジューリングにより選択されたユーザに送信する。各ユーザのCQIに応じた最適なLocalized FDMA信号の割当てを行うことにより、図1(a)に示されるように受信信号レベルの高い周波数ブロックをもつユーザを選択できるのでユーザ間のダイバーシチ効果(マルチユーザダイバーシチ)を得ることができ、ユーザスループット注意5およびセルスループット注意6の向上が可能となる。

2Distributed FDMA
共通制御チャネルのように複数ユーザに同報するチャネルでは、周波数領域で離散的なサブキャリアを用いるDistributed FDMAで信号送信することにより、低速データレートのチャネルに対しても広帯域周波数帯域幅のチャネル変動の平均化効果(周波数ダイバーシチ効果)を得られる。さらに、Localized およびDistributed FDMA信号を組み合わせた信号送信法も検討されている。

(2)MIMOチャネル伝送を用いる高速信号伝送

E-UTRAの下りリンクにおける目標ピークデータレートである100Mbit/sを実現するため、MIMO(Multiple Input Multiple Output)多重伝送の適用が検討されている。MIMO多重伝送では、複数の送信アンテナから同一の無線リソース(時間、周波数、コード)を用いて異なる情報データを送信することにより、ユーザ/セルスループットを向上することができる。受信機では、送信アンテナごとの直交パイロットチャネルを用いて測定した、送信アンテナごとのチャネル変動値を基に送信信号分離を行う。OFDMに、MIMO多重伝送を適用した場合、直接拡散符号分割多元接続(DS-CDMA : Direct Sequence Code Division Multiple Access)注意7などのシングルキャリアベースの無線アクセスと異なり、他の送信アンテナ信号との信号分離をマルチパス干渉の影響を受けることなく高精度に実現できる。したがって、OFDMはMIMO多重伝送との親和性に優れているため、高速信号伝送に適している。2 送信および2 受信アンテナブランチ(以下、2×2)のMIMO多重伝送を用いた場合の平均受信Es/N0に対するスループット特性を図2 に示す。信号帯域幅は20MHzで、マルチパスモデルとして典型的な都市のチャネルモデルであるTypical Urbanチャネルモデルを用いた。図に示すように、2×2のMIMO多重伝送を用いることにより、20MHzの信号帯域で要求条件である100Mbit/s以上のスループットを実現できることが分かる。

図2 2×2MIMO多重伝送を用いた場合のスループット特性

(3)SFN combiningを用いるマルチキャスト信号伝送

OFDMベースの無線アクセスにおいては、ガード区間内に到達した遅延波はシンボル間干渉およびサブキャリア間干渉を生じることなく、すべて有効信号電力として利用することができる。したがって、異なるセルサイトから同一の無線リソースで同一の情報データを送信した場合、ガード区間内に到達した信号は、あたかも遅延波のように希望波信号として合成することができる。ガード区間内の同一の情報データ信号は、受信機には合成信号として入力するため、SFN(Single Frequency Network)合成あるいはsoft-combiningと呼ばれる。このため、OFDMでは複数の基地局からの信号を容易に合成できる特徴を持ち、このSFN合成を用いるマルチキャスト/ブロードキャストがOFDMの重要な技術として検討されている。マルチキャスト/ブロードキャストでは、複数のセルサイトからの送信信号を合成受信するために、通常の1セルサイトとの通信を行うユニキャストと比較してガード区間長を長くする必要がある。しかしながら、前述のようにガード区間内に到達した複数セルサイトからの送信信号はすべて希望波信号電力となるため、高速データレートの高品質受信を実現することができる。

  • 注意1 周波数分割複信:双方向の送受信方式の1つ。上りリンクと下りリンクに異なる周波数帯域を割り当てる方式であり、同時に送受信が可能。
  • 注意2 時分割複信:双方向の送受信方式の1つ。上りリンクと下りリンクに同一の周波数帯を使用し、異なる時間を割り当てることにより双方向通信が可能。
  • 注意3 シンボル:伝送するデータの単位であり、OFDMの場合は複数のサブキャリアから構成される。各サブキャリアには複数のビット(例えばQPSKなら2bit)がマッピングされる。
  • 注意4 周波数選択性フェージング:建物などに反射して異なる経路で到来する信号(電波)が受信されることにより、受信信号の周波数軸上における受信レベルが一様でなくなること。
  • 注意5 ユーザスループット:1ユーザが単位時間内に誤りなく伝送できるデータ量。
  • 注意6 セルスループット:1つのセル内で単位時間内に通信できるデータ量。
  • 注意7 直接拡散符号分割多元接続:ユーザごとに異なる符号を用いて信号系列を直接拡散することで、同一周波数帯域内において複数のユーザのアクセスを可能とする方式。W-CDMAに採用されている方式である。

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.14 No.3に、掲載されています。