3.1 新サービス創造のための新技術

「LTE-Advanced Release 13標準化技術概要」目次

昨今のIoT(Internet of Things)※4への市場の期待の高まりに応えて、3GPPにおいてもIoT向けデバイスへの通信を提供するための仕様を策定した。また、Release 12仕様で策定した端末間通信技術(D2D:Device to Device)※5の機能も拡張された。

  1. シンコム(カテゴリM1とNB-IoT)

    近年、スマートメータ(電気・ガスメータ)などのサービスを対象にしたマシンコム端末についてさまざまな団体で検討が行われている。3GPPにおいてもLTEの端末カテゴリとして、Release 12仕様において①データレートを最大1Mbpsに制限、②FDD(Frequency Division Duplex)※6半2重通信(Half Duplex)※7のサポート、③1アンテナ受信のサポートを特徴とした低価格なマシンコム端末向けのカテゴリ0が策定された。Release 13仕様ではさらなる低価格化およびカバレッジの拡張を実現すべく、新たに2つの端末カテゴリがサポートされた。

    • (a)カテゴリM1

      1つめは、カテゴリ0の特徴に加えて①端末の送受信帯域幅を1.08MHzに制限、②約15dBのカバレッジ拡張のサポートを特徴とした端末カテゴリ(カテゴリM1)である。送受信帯域幅の制限によるコストの低減効果が大きく、カテゴリ0に比較して端末チップ価格の約50%低減を想定している。

    • (b)NB-IoT

      2つめは、当初GSM(Global System for Mobile communications)※8の周波数バンド向けに技術検討が行われていたが、LTEの周波数バンドでも使用できるように仕様検討が共通化されたNB(NarrowBand)-IoTカテゴリである。このNB-IoTカテゴリは、①端末の送受信帯域幅を180kHzに制限、②20dB超のカバレッジ拡張のサポートを特徴としている。カテゴリM1に比較してデータレートや周波数利用効率※9が低下するものの、さらなる狭帯域化により端末チップ価格の約25%低減を想定している。

  2. 費電力低減

    マシンコム端末向けに消費電力を低減する技術としてPSM(Power Saving Mode)がRelease 12仕様で策定された。PSMは、間欠受信を行わず、無線の機能をほぼOFFにすることで消費電力を大幅に削減できる。一方で、端末向けの着信は周期的に行われる位置登録の契機(通常54分)でしか行えないという課題があった。そこで、着信間隔を短くすることも実現する技術として、待受け中の間欠受信周期を既存の最大2.56秒よりさらに大きくし、最大43分の間欠受信周期を設定できるextended DRX(Discontinuous Reception)※10が策定された。

  3. D2D高度化

    Release 12で策定されたD2Dについて、サービス適用領域拡大のための高度化が行われた。 非常時の通信手段としての公共安全用途では、カバレッジ内の端末をリレー局としてカバレッジ外端末のデータを基地局までリレーするUE-to-network relayが策定された。これにより公共安全向け基地局のカバレッジを補完してネットワーク接続性を提供することで投資コストの削減が可能になった。リレー局発見などに適用可能なカバレッジ外での端末発見(D2D discovery)※11も策定されている。
    また、商用用途向けにはキャリア間・事業者間のD2D discoveryが策定された。具体的には、接続セル※12の報知を用いた他キャリア用D2D設定の通知、およびD2D discoveryのための送受信の機能の切替えを可能にする制御が策定された。

  1. IoT:さまざまな「モノ」がインターネットやクラウドに接続され、制御・情報通信される形態の総称。
  2. 端末間通信技術(D2D):端末間で直接通信を行う通信技術。基地局カバレッジ外において端末間で自律的に直接通信を行う場合と、基地局内カバレッジにおいて基地局からの制御情報を基に端末間で直接通信を行う場合の双方に対応している。
  3. FDD:上りリンクと下りリンクで、異なるキャリア周波数、周波数帯域を用いて信号伝送を行う方式。
  4. 半2重通信(Half Duplex):一方(例えば基地局)が送信(受信)している間は他方(例えば移動端末)が受信(送信)を行う、同時には一方向のみにしか伝送できない通信方式。
  5. GSM:デジタル携帯電話で使用される第二世代の移動通信方式。
  6. 周波数利用効率:単位時間、単位周波数帯域当りに送信できる情報ビット数。
  7. DRX:端末の消費電力削減を目的とした間欠受信。
  8. 端末発見(D2D discovery):近傍に位置する端末を発見する技術。
  9. セル:セルラ方式の移動通信ネットワークと移動端末との間で無線信号の送受信を行う最小のエリア単位。

3.2 ユーザスループット・容量増大のための新技術

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.24 No.2(Jul.2016)に掲載されています。

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