コラム:イノベーション創発への挑戦

働き方 制約消える時代に

働き方 制約消える時代に

2019年1月末、「みらいのオフィスを語る会」という勉強会を大阪大学で主催した。今から10年後の働き方がどうなっているかを予測し、最適なオフィス環境はどうあるべきかを議論した。

未来に起きることは、既に兆しとして始まっている。情報通信技術(ICT)関連の働き方を観察していると、出社・退社時間の自由な選択、出社せず自宅で働くテレワークなどは、もはや普通のことだ。職場は仲間とのつながりを確認する場であって、時間に縛られて働くところではない。会社はコミュニティー化して、仕事はプロジェクト化していく。この兆しは大きな流れになるだろう。

アクティビティ・ベースド・ワーキング、略してABWという言葉をインテリアデザインの文脈で聞くようになった。訳すと「業務に即して時間・場所・方法を選択する働き方」になるだろうか。1996年にオランダで誕生した言葉だ。

その概念によれば、個々がいつ、どのように、どこで働くかを選ぶことができる。オフィスの中では居場所を固定せず業務内容によって働く場所を変える。

勉強会の前日、ソフトバンクグループによる新オフィス移転計画が発表された。新オフィスは、オープンイノベーションの創出に最適化されたコミュニティー型ワークスペースをグローバルで展開する米ウィーワークが設計するという。

そのデザインの考え方はABWそのものだ。寝られるソファ、ビールが飲めるカフェと錯覚しそうなテーブル席、ビリヤード台、派手なクッション、観葉植物が置かれ、天井は吹き抜けだ。こんなところで真面目に仕事ができるかと9割のオジさんは思うだろう。

ABWの本質はインテリアデザインではない。社員の自主性、変化への意欲に基づいたチームマネジメントのためのツールである。勉強会に参加したオカムラの「はたらくの未来研究所」の遅野井宏所長は言う。「今ある制約を無くしていくことが、これからの働き方を考える本質だ」

ICTの進歩により、遠隔の同僚と実時間で会議すること、ノート型パソコンを持ち歩いて仕事すること、オンライン共同作業システムにより打ち合わせ無しに資料作成ができることが可能になっている。これまでの常識だった距離、場所、時間の制約がなくなろうとしている。未来の働き方ではオンとオフの境界が曖昧になり、会社の枠が溶けていく。業務効率化の視点だけでなく、個人の生きがい、幸福度を指標とした働き方が重要となる。

ABWによるオフィスがちゃらちゃらした外見で終わるのかどうかは、会社がいかに社員を大人扱いし、社員は仕事のプロになっているかにかかっている。オフィスの外見は新しい働き方に向けて変革する企業文化を表すことになる。制約から自由になろう。これまでの常識を見直そう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2019年3月1日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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