コラム:イノベーション創発への挑戦

ソフトウエアをビジネスにしよう

ソフトウエアをビジネスにしよう

産業の効率化を求める大きな潮流が3つある。1つは高齢化だ。働き手の割合は今後20年で30%減る。今の生活を維持するには生産性を上げるしかない。2つ目はシェアリングエコノミーだ。モノを所有する不効率さが認識されるようになった。モノからコトといわれるサービス産業の重要性が増している。

3つ目は「範囲の経済」の効用拡大だ。商材の多角化や自社技術の他事業領域への展開でプラットフォームビジネスを興す。米アマゾンが本の通販から小売流通市場の覇権を握り、自社の情報処理技術を外販していることが典型例だ。

これからも3つの潮流は大きな渦となって我々を巻き込んでいく。デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)は個々の企業にとって、潮流を泳ぎ切るために欠かせない。高齢化社会への対応やモノからコトへの事業転換、事業多角化コストの吸収をITで乗り切る手法だからだ。ITを医療福祉、製造、金融、流通などと融合することで各産業が生き残れる。

2019年、筆者の周囲で頻繁に起きたことの1つが転職だ。35歳未満の優秀なIT技術者が次々にIT産業から他産業へ転職している。ITと他産業の融合を阻む日本の構造的課題が労働の流動性の低さだったから、これは大歓迎したい。

今の会社があなたを必要としないなら見切りをつけよう。ただし現在もうかっている企業は好条件であなたを迎えるが、その企業がデジタル変革の本質を理解していなければ、あなたは転職を後悔することになる。もうかっている会社の変革は難しい。次の7点チェックリストで、4点以下なら転職をやめるべきだ。

  1. 社長が「イノベーションの源泉がソフトウエアにある」と理解している
  2. 経営幹部が発表資料を作成している
  3. 情報システム部長がソフトウエアを書ける
  4. 外部から中途入社の経営幹部がいる
  5. サブスクリプション型のビジネスモデルを実施している
  6. マーケティング、開発、運用が一体化した組織がある
  7. 企業投資・買収部門がある

あえて表層的に書いたが、本質は転職先の企業文化がソフトウエア企業のそれに変わろうとしているかどうかだ。富士通シニアフェローの宮田一雄氏によれば「ソフトウエアを米国はビジネスにした。ヨーロッパは科学にした。そして日本は製品にした。日本は製造業のアナロジーでIT産業を捉えてしまったから、デジタル変革をできないでいる」という。

原典はマサチューセッツ工科大学クスマノ教授の著作「ソフトウエア企業の競争戦略」にある。もし私がデジタル変革を目指す製造業の経営幹部なら、こう言いたい。「我々はソフトウエアがわかっている製造企業になるのではない。製造がわかっているソフトウエア企業になる」。ソフトウエアをビジネスにしよう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2020年1月8日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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