コラム:イノベーション創発への挑戦

リアル店舗の再定義

リアル店舗の再定義

2020年10月に「買物体験型スーパーマーケット」として改装し再開店したマックスバリュおゆみ野店をこのほど見学することができた。買物体験型について案内をしてくれたマックスバリュ関東社長の手塚大輔氏は「チェーンストアのノウハウで売り場の生産性を高めるだけでは、小売業の価値を高めていくのにも限界がある。顧客満足度を高めることを一番に考えた」という。

入り口を入ると円形の生鮮食料品売り場が目の前に飛び込んできた。例えが難しいが目指すのはフランスのマルシェか。地元農家からは採れたての野菜が届けられ、新鮮な果物や魚と一緒に目の前に並ぶ。周囲はにぎやかで対面販売で客は売り手との会話を楽しむ。生鮮食品の広場から客は店内をゆっくり回遊して買い物を楽しむ。生鮮食品だけではなく、30~40代の家庭を意識した総菜と冷凍食品の品ぞろえも豊富だ。総菜は目の前で生鮮素材から作られている。

マックスバリュ関東が「廉価多売ではなく、顧客体験価値の最大化を目指す」と言うだけあって、客にとっては思い切り滞在時間を楽しむことができる店になっている。この「顧客体験価値の最大化」はデジタルと深く関係している。親会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)でデジタル企画を担当する満行光史郎部長は、「今のスーパーの問題はレジ以外に従業員が店頭にいないことだ。むなしい音楽と放送が流れていて活気がない。イキの良い店には対話が必要。例えば魚屋とお客とのやりとりなどガヤガヤが欲しい。そのためにデジタル化で定型業務を機械に任せている」と話す。

USMHは、発注やレジ業務を効率化し、生まれた余裕で人員を売り場に配置、顧客とのコミュニケーションの機会を増やそうとする。さらに顧客との接点を増やすため、同社開発のスマホアプリを用意する。アプリの機能の1つが「スキャン&ゴー」だ。一言でいえばレジに並ばなくても買い物ができる仕組みだ。商品を買い物かごに入れる際にスマホでその商品に付けられたバーコードを読み取る。最後にスマホの画面のQRコードを出口付近のQRコードリーダーにかざせば購入完了だ。デジタルによる顧客接点を増やすことで、客の好みと満足度をより正確に知ることができる。

店で見聞した内容は(1)多くの人が商品とサービスに容易にアクセスできる(2)サプライチェーンを最適化できる(3)店と客の関係性を人対人のやりとりに変える(4)リアル店舗のあり方を再定義するという4つのポイントに分類できる。重要なことは、小売業ではない外部からの人材獲得により、これら4つを進めているということと、そのための失敗を許す会社のカルチャーがあるということだ。経営が既存の小売事業から挑戦領域にシフトし続けている。リアル店舗+デジタルで物流改革、生活改革のイノベーションを起こせる機会があることをマックスバリュおゆみ野店は教えてくれる。この店舗は必見だ。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2021年2月5日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

他のコラムを読む

このページのトップへ